生理中の訓練・行軍・遠泳は「地獄」

女子特有の悩みにも触れておかねばならない。生理についてだ。生理痛は個人差がひどいため「イライラしてしまうサイクルがあるのが嫌」「生理中の訓練が本当に苦しかった」と挙げる者がいる。ある者は、生理痛が重いため、過酷な行軍時に被らないようにとピルを服用し、副作用に耐えていたのに行軍時に生理が来てしまって泣いたという。

▲訓練と生理が被ったら…防大女子ならではの悩み イメージ:PIXTA

1学年時の夏の訓練では、東京湾8キロ遠泳がメインとなり、毎日、海やプールでの練習が実施される。高校時代までは「今日、あの日だから見学で」が通用するが、私の知る限り、防大では「生理だから」と言って練習を休んだ女子学生はいない。

訓練期間は約1カ月あるため、だいたい1度は生理期間が重なる。みんな慣れないタンポンを装着して訓練に挑むことになるが、そもそもタンポンを使ったこともない者がほとんどのため、トイレで悪戦苦闘し、時間にも追われて軽いパニックになることもある。

ある者は「遠泳本番と生理2日目が重なった。なんとか乗り越えたけど『こんなキツいことがほかにあるのか』と思った」と振り返る。

話を聞く限り、女子学生の生理への扱いは、昔の方がキツかったようだ。私の時代にはすでに、夏季訓練前に女性の指導官が、ピルの処方希望の有無をわざわざ聞きに来てくれた思い出があるが、四十期(女子一期)代は「あまり問題視、重要視されなかった」と振り返る。

防大には医務室があり、風邪などの治療はそこで受けられるが、婦人科はないため、外部の病院に通院するには指導教官の許可が必要となる。そんななかでピルを処方してもらうため「男の指導教官に言いたくもないのに申請に行ったら『女子は生理が止まって普通だから。そういうケースはよく聞くよ』と言われた同期がいた」と話す者がいた。

また、なんとか横須賀にある民間病院にかかったところで「『オリンピックに行った女性は血を垂れ流しながら走ってた』って言われたから、あそこは行かないほうがいいよ」などという話をしたこともあったという。

生理をめぐっては、普段は少ない、女子同士の確執があったという意見もあった。

訓練前になると、ピルの処方の希望の有無を聞かれる。訓練の強度で言えば4学年の陸上要員が最も高いため、下級生がピルを処方してもらおうとすれば「『今のうちからピルを飲むとか信じられない。今からそんなこと言ってたら、これからやっていけないよ』と言われて諦めた」「3学年のときに野営があるから処方してもらおうと思ったら『3年なのにピル使うの』と4学年の女子に言われた。結局もらいはしたが、使っちゃだめなのかと逡巡した」という者もいた。

筆者が実体験した自衛隊と生理

私自身、1学年の途中から約2年間、生理が止まった。本来であれば、すぐに病院に行くべきだということは頭ではわかっていたが、ただ“楽だから”という理由で放置していた。

3学年時、武装走というフル装備で行う障害物競走のような訓練の本番当日、生理がやってきて「久しぶりにきた」という安堵と「なんで今……」という悲しみの気持ちが入り交じった。割合で言えば、落胆のほうが大きかったかもしれない。

ただ、その後もかなり周期が不規則で、1度病院で診てもらった際には「子宮が未熟な状態です」と言われ「将来、妊娠できるのだろうか」と不安になったことがある。

ところが、自衛隊を辞した途端に周期が安定し、今では二児の母だ。防大在学中は「だいたいのことは気力でカバーできる」と思っていたが、体は思ったより正直なんだと妙に感心した。

▲今では二児の母。体は正直だ イメージ:PIXTA

取材でも、やはり「生理が止まった」と話す者が複数いた。聞く限り私と同様に「まずいなぁとは思ってたけど、病院には行かなかった」と言う。訓練期間中、陸上だと山に入ればトイレがないこともある。つまりナプキンを取り替えることもできない。なんとか取り替えたところで捨てる場所もなく、変えたナプキンを持ち歩かなければならない。となれば「生理がないほうが楽」と思ってしまうことはやむを得ない。

「防大、自衛隊はやっぱり女子のリズムには合っていない」と指摘する者もいた。今回の取材ではテーマとして「生理」を問うたわけではないが、複数の女子から生理についての言及があった。おそらく、私が聞いていないだけで不調を抱えていた女子はまだいるだろう。

部隊に行ってからピルを飲み始めたというある者は「生理を自分で管理できるし、生理痛も減ったし、なんなら肌も綺麗になった。なんで防大時代に飲んでなかったんだろう」と話す。

私は運良く女性としてのリズムを取り戻せたが、卒業して自衛隊を退職し、それなりの月日が経過しても「まだ不順のまま」という者もいる。生理がこない、というのは楽なことではあるが、女性の体にとっては不自然な状態だ。その割を食うのは、子どもを欲したときの将来の自分かもしれないことを、よく認識する必要がある。

※本記事は、松田小牧:著『防大女子 -究極の男性組織に飛び込んだ女性たち-』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。