「ちょっと調子に乗りすぎだろ?」目の前に10人の敵
そんな僕にもってこいの話が浮上した。ギャングイーグルのOBである誰かが、車を鉄バットで大破されて、相手に報復をするという騒ぎが起きた。相手は名古屋のカラーギャングで、チームカラーは白。規模は700人の大所帯だと言う。家から、バットや鉄パイプなどを持ってくるように指示を受けた。先輩の車に凶器を詰め込んで、複数に分かれた。
岐阜から名古屋に向かっている途中で、僕たちの前を走っていた一般車両が、歩行者を轢いてしまった。交差点は騒然としている。通り過ぎることはできない。1番近くで、一部始終を目撃していたのは僕たちだ。
「急げ! バットを隠せ!」
警察が来る前に凶器を隠して、カラーギャングのシンボルであるバンダナも外した。ほどなくしてパトカーが到着すると、事情聴取が始まった。本来ならば警察に捕まってもおかしくない僕たちが、捜査に協力をして感謝をされる、という不思議な体験をした。コッチが一段落ついたときには、敵対しているチームとの抗争も終焉を迎えていた。
結局、これと言ったトラブルは起きないまま、事なきを得てしまった。物足りない。こんなはずじゃなかった。もっともっと刺激が欲しい。周りのみんなに連絡をして、何かあったら自分に言うように呼びかけた。誰かの揉め事を代行して解決するのが狙いだった。
いろんな案件を任されたが、張り合いのない相手ばかり。最初はイキがっていても、僕が出て行った途端に、謝罪をして終わり。どこかに骨のあるヤツはいないものか。
そんなときに、年上に言いがかりをつけられているという話が舞い込んだ。被害を受けていたのはタケル。前回の相手とは別の相手だ。この話は、本人から聞かされたわけではない。又聞きした情報を本人に問いただしたら、嫌がらせを受けていることが事実だと判明した。
相手は自分の中学の一個上。呼び出すために学校に乗り込んだ。3人で別の場所に移動をして、2人に言い分を説明する時間を設けたが、一向に話は前に進まなかった。膠着状態が続いてイライラした僕は、相手を激しく追求。反論も謝罪もしない態度に業を煮やして、拳を振りかざした。これでタケルは平穏な学校生活を送ることができる。さぞかし喜んでくれるだろう。
「あ、ありがとう……」
どこかよそよそしい。通信制の学校に行ってから、連絡を取ることが少なくなっていたからか。このあと2~3回やり取りをしたが、結局それ以降は連絡が途絶えてしまった。
このあとも、あらゆる争いの仕置人として依頼を受けた。次は中学の同級生から。いきさつは不明だが、誰かに金銭を要求されていた。これは呼び出して話すこともなく、電話を一本かけて解決。感謝の気持ちを示されるのは気分が良かった。
あとになって思えば、人助けをしているつもりで、自分の劣等感を埋めようとしていただけなのかもしれない。このことをタケルはわかっていたのだろうか。そんなことも知らずに、お門違いな世直し気取りは続いた。また電話が鳴って、誰かの厄介事を取り計らうつもりで応答ボタンを押した。
「今から3丁目のマンション前に来い」
地元の先輩からだった。用件は敵討ち。不用意に成敗を繰り返しすぎて、最初は誰の仇討ちかわからなかったが、話を聞くとタケルの代役で高校に乗り込んだときの案件だった。その知り合いからの呼び出しの電話。別にいい。相手が誰であれ構わない。行ってやる。だが言われた場所に着くと、相手は1人ではなかった。10人が殺気立って待ち構えている。
「お前ちょっと調子に乗りすぎだろ?」
この人数に殴られたら勝ち目はない。しかも、10人のうちの1人はボクシングをやっている。友達と同じジムに通っていて、見学に行ったときに見たことがあった。どう足掻いても勝てない。
残酷な運命に打ちひしがれながら歩いていると、遠くのほうから一筋の光が射し込んだ。たまたまギャングイーグルの先輩が前から歩いてきたのだ。すれ違いざまに声をかけてくれた。
「喧嘩?」
「はい」
「ふぅん」
通り過ぎてしまった。やっぱり今日で僕の人生は終わりだ。相手は一瞬ヒヤッとした表情になったが、徐々に元の顔に戻った。拳をパンパンさせながら意気揚々と歩いている。公園に着くと、10人が僕1人を前にする形にして立った。そして、リーダー格の男が一歩前に出てこう言った。
「お前は今までの報いを受けるときが来たんだ。全員でタコ殴りにしてやるからな。わかったか?」
「45」は、次回12/17(金)に更新予定です。お楽しみに!!
