岐阜でナンバー1のチームに入った。学校でも鼻高々だ。でも、中身は変わっていない。そんな自分に悶々とする日々。でも、彼はついに出会う。自分がこうなりたいという存在に――。

ギャングイーグルに入ったのに自分の弱さを思い知る

家族の前では普通の人間を演じていた。今の自分がなろうとしている人間像を知られたら、止められるに決まっている。もう引き返すことはできない。学校をサボることもあったが、バレないように隠していた。

まず、登校するフリをして家から出る。そのままブラブラして、夕方には何事もなかったような顔をして帰宅。高校生にしてリストラをされたサラリーマンみたいな気分を味わっていた。

久しぶりに登校したときは、同級生たちにギャングイーグルのことを聞かれた。彼らは、僕がボクシングをして鼻の骨にヒビが入ったことしか知らない。初めての集会で、意味不明な連帯責任をとらされそうになったことや、チームの看板を汚して怒られたことを話した。瞬く間に噂は広まって周りの反応は変わった。

先輩たちは何も知らない。1年と2年がすれ違う階段の踊り場で声をかけられた。

「ねぇ、ねぇ。チケット買わない?」

聞いたことがある。いわゆるパー券と呼ばれる代物だ。相手は学校の中でも目立っていた、1個上の加藤さんというヤンキー。昔なら買っていたかもしれない。集会に行く前に路上で絡まれて謝ったことを、チームの面汚しと怒られた経験は記憶に新しい。もし同じ過ちを犯してしまったら、今度こそ罰を下される。

どうしよう。加藤さんは自分より身長も体格もデカい。歯向かったらやられるかもしれない。かといって屈服したら、ギャングイーグルの先輩に知られる可能性がある。

「チームの人に買うなって言われてるんで……」

「ん? どこのチームに入ってんの?」

「ギャングイーグルですけど」

「え、マ、マジで!? ……あ、チケットは買わなくていいよ! ごめんね! 今日のことは内緒ね! じゃ!」

こうなることはわかっていた。咄嗟に出た言葉だったが、効果は絶大だ。何度も使える方法ではない。他に方法が見当たらなかった。今は平伏しなかっただけでも成長したと思いたい。

自分の弱さを思い知るのは昼休みの最中。加藤さんが、2年の教室から1年の僕がいる教室まで会いに来た。

「3年にムカつくやつがいるから絞めに行こうぜ」

ギャングイーグルに入っているから根性を兼ね備えているのだろう、という罪深い思い込みが原因だ。お門違いもいいところ。こちとら本物の不良とは程遠い。それを素直に伝えることができたら、どれだけ楽だったか。このときは余裕なフリをして付いていくしかなかった。

加藤さんは、尻込む素振りを全く見せずに3年生の教室へと乗り込んだ。ただならぬ雰囲気を察して、3年生の女子生徒たちが騒ぎ始める。その声に突き動かされるように、腕に自信のありそうな連中が現れた。トラブルシューティングを担当している3年生代表の柔道部、といった感じ。勝ち目はなさそうだ。案の定いきなり襟首を掴まれて、加藤さんは倒された。

僕はというと……素知らぬ顔。声を張り上げながら揉み合う姿を見て、何もできずにいた。とてもじゃないが割って入ることはできない。いとも簡単に返り討ちに遭った2人は、すごすごと引き下がった。加藤さんは何も言わなかったが、言いたいことはわかる。とんだ偽物を誘ってしまった、とでも思っているのだろう。

このときは自分を責めていたが、あとになって考えればおかしいのは加藤さんだ。僕は3年生になんの恨みもない。同じテンションで立ち向かえというほうが無茶な話。加藤さんとも出会ったばかりで、なんの思い入れもない。

これが十年来の友人ともなれば話は変わってくる。きっと自分を犠牲にしてでも助けていた。と、空想を繰り広げるのは簡単だが、実際に直面したらどうなるのかは別の話。集会に行くと、余計に理想の自分とのギャップを感じることになる。

なんにも縛られない先輩たちがキラキラして見えた

祭の日の話。いつものように銀行の前に集まって、人混みの中へと紛れ込んだ。先輩たちは、バスの窓や天井に飛び乗って騒いでいる。運転手は外に向かって怒号を飛ばした。外にアナウンスできる機能がついていることを初めて知った。車道は完全に封鎖。歩行者天国状態だ。もっとも、一般の人たちからすれば地獄のような状態だったと思う。約50人が歌を歌いながらの大行進を始めた。

「不思議な不思議なギャングイーグル! 東は柳ヶ瀬、西はなんちゃら〜。たーかくそびえる金華山。あーあー皆でギャングイーグル」

ヨドバシカメラのCMソングの替え歌だ。まるでパレード。こんな無茶苦茶な振る舞いに黙っているほど、世界は寛容ではない。すぐに警察が来た。同世代の水島が反抗すると、警察は柔道技をキメて一喝。今までの僕の人生の辞書には、警察に歯向かうという文字はなかった。

「ごめん! お巡りさん! 今日のことは俺のせいだから! もう引き上げるから! 頼むよ、離してやって」

すかさず、リーダーが駆けつけて頭を下げた。なんて格好いいんだろう。仲間のためなら、後輩の前だろうが頭を下げる。男の中の男だ。警察の言うことを聞いて、一目散に祭りから抜け出した。

この日のような騒ぎはそうそう無かったが、警察との一悶着は日常茶飯事だった。集会を中断するように言われると、躊躇なく食ってかかる。

「何が悪いんだよ! 俺たちはただ集まってるだけだろ! 上等だよ! かかってこいよ! やってやるよ」

先輩は上着を脱いで、自分のほっぺたをペチペチ叩いて警察を挑発した。こんなに気合いが入ってないといけない世界なのか。生半可な覚悟では生き抜くことはできない。後ろからは笑い声が聞こえてくる。

「Yo.Yo.Yo.Yo! 俺らの何がワリーんだよ! 間違ってんのテメーらだろ! 国家の犬はオマワリだよ! 俺らはみんなヒマワリだよ」

警察も思わず笑っていた。なんだ? この状況は。ラップの内容はよくわからなかったが格好いい。自由で堂々としていてキラキラしている。どこか幼い頃に憧れた芸人の姿に似通った部分があった。