借金は「エネルギーを得るためのモノ」

一般の人からすると「借金をする」という言葉に対する抵抗感は強くあると思います。でも、資本主義は借金をすることで回っていくのです。もしも借金ができなかったら、経済は発展しません。

▲借金は「エネルギーを得るためのモノ」 イメージ:makaron* / PIXTA

借金は元手です。人間は生きるうえで必要なエネルギーを得るためにモノを食べますが、資本主義経済でいうと「エネルギーを得るためのモノ」にあたるのが借金です。

現実に、いま持っている資産だけで生きていこうとしたら、新しいことは何もできません。いま持っている資産は新しいことに使えませんから。

要するに資産を持っていても、将来的にグレードアップしていこう、より大きなビジネスチャンスを手に入れよう、あるいは子どもを育てたい、あるいは家を買ってよりいい暮らしのもとに何かを始めようと考えると、これには借金が必要です。

企業にしても、いま現在生産しているものだけ、しかもその生産量を増やさなかったら、発展は望めません。だから新しい商品を開発したり、設備投資をやったり、用地を取得したりすることが必要になってきます。

ただ、それを実現するにも、やはり資金調達が必要です。手元にある財産だけ、つまり自己資金だけでやろうとしても、それではたかが知れているわけですから。

そのために株式があり、投資をしてもらう――株式は元本の返済義務はありませんが、株主には配当というカタチで還元します。株式上場するのも、資本主義における企業の資金調達の方法のひとつです。あとは純粋に銀行から借り入れるか、社債を発行するかです。

お金(資金)というものはどこかで余っていて、貸し手はいくらでもいます。お金を持っているだけでは意味がないから、どこかに貸して、利益を還元してもらいたいわけです。

このように借り手と貸し手の利害が一致するから、資本主義ではお金が動いて、パイが大きくなる、即ち成長をしていくわけです。資本主義には、そういう意味で非常にダイナミズムがあるということです。

デフレはすべて「悪」なのか?

デフレという言葉はよく目にすると思いますが、デフレーションの略語で、デフレーションは『広辞苑』で〈(通貨収縮の意)物価が持続的に下落すること。企業の倒産、失業者の増大など不況や社会不安を伴うことが多い。〉と記されています。

▲デフレはすべて「悪」なのか? イメージ:ふくいのりすけ / PIXTA

長引くデフレで、日本経済は失われた25年に陥っていると言われますが、デフレはすべて「悪」なのでしょうか。もしデフレになって物価が下がっても、賃金が下がらない、あるいは上がれば問題ないでしょう。

例えば、19世紀半ば、アメリカのカリフォルニアでゴールドラッシュが起きました。当時は、金がそのまま通貨にもなった金本位制の時代です。金の生産量がガーンと増えたためデフレになりました。では、経済がダメになったかというと、決してそんなことはありませんでした。

世界中から探鉱者がカリフォルニアに殺到したため、食料・物資・住居の需要は拡大しましたし、投資も盛んになりました。経済は成長しているわけです。そういう環境下でのデフレ=物価が下がるのはいいことです。デフレになっても賃金は上がるし、いろんなビジネスの機会がある。経済は成長している。

つまり、デフレは悪だと短絡的に考えるのではなく、経済成長ということと関連づけて考えないといけない。

ただし、金の採掘量が一気に増えたというのは、例外的な話でしょう。本来のデフレは、需要が供給に対して不足することで起きます。

需要不足で物価が下がる、あるいは売上が下がると、すべてが委縮してしまうので、新しい雇用も、投資も生まれにくくなります。それから売上が下がるということで、市場のパイが小さくなっているわけですから、企業は人のクビを切れないなら賃金を下げます。あるいは正社員採用はやめて、人件費の安い非正規社員採用のほうへシフトするわけです。

そうなると平均賃金がガーッと下がっていきます。例えば物価が1くらい下がったとしても、賃金は5くらい下がってしまう。実際に統計データを見るとそれくらいの下がり方をしています。

日本のデフレ=慢性デフレの恐ろしさは、物価は決して急激に下がっているわけじゃないのに、賃金のほうがはるかに下げ幅の大きいところにあります。その影響を受けて、雇用の構造が変わっていきます。即ち正社員の比率が落ち、非正規が増えるということです。

アベノミクスでは「雇用が増えましたよ」というのが安倍晋三さんの自慢でした。しかし増えたのはパートなどの非正規雇用でした。それから高齢者の再雇用です。60歳を過ぎて再雇用されると、賃金が極端に下がりますから。

「雇用が増えた」のは確かにアベノミクスの功績です。しかし、平均賃金は下がったまま、むしろ下がり続けています。これが定年後の人たちだからある程度は仕方ないというのは理解できます。しかしながら、こういう就業構造のもとでは若い人の賃金まで下がっていくのです。