若くして即位したエリザベス2世を中心に、イギリス王室内の人間関係や政治家たちとの関わりなどを、史実に基づきドラマ化したネットフリックスのドラマシリーズ『ザ・クラウン』は、2022年にはシーズン5の配信が予定されているなど海外での人気が高い作品だ。歴史や政治に詳しい八幡和郎氏に、このドラマの面白さについて解説してもらった。
リアリティ満点の現在進行形の実録ドラマ
Netflixで配信されている『ザ・クラウン』(The Crown)は、なんと、エリザベス女王の生涯を、そっくりな俳優さんたちが演じるリアリティ満点の現在進行形の実録ドラマである。
あまりもの迫力に、イギリスではロイヤル・ファミリー一人一人の人気にも影響が出ているし、日本では安倍晋三前首相も熱心なファンだし、皇室関係の人も固唾を吞んで見ているようだ。
ロイヤルファミリーに興味があまりなくても、現代政治やマスコミ論、絢爛豪華なファッションについても勉強になるし、純粋のクイーンズ・イングリッシュやマナーを身につけるためにも役に立つから、正月休みに家族で議論しながら見るのにも向いている。
一方、秋篠宮家の眞子さまと小室圭氏のドタバタ・ロマンスは、週刊誌とワイドショーでは「小室バブル」といわれるほど扱われたが、これがテレビ・ドラマや映画の題材で扱われる日は来るのだろうか。
もちろん、ドラマで天皇や皇族が登場することはないではない。しかし『青天を衝け』での犬飼直紀さんが演じる明治天皇など、ほとんどお人形さんだ。『麒麟が来る』で中村玉三郎さんが演じた正親町天皇は、珍しく大胆だったが、むしろ神様が戦乱の世に降誕してきた趣で、生きた人間らしくなかった。
まして、男女関係が絡むものとなれば『源氏物語』のような実名が出ないものは別にすると、源平時代を扱ったもので、後白河上皇とその周辺の人物が生々しく悪玉役で登場するのが例外としてあるだけだ。
一方、海外では王様たちのロマンスや男女関係、政治と関係や人間としての葛藤も遠慮なくドラマになる。イギリス王室ものでは、エリザベス女王の父親であるジョージ6世が、言葉が滑らかに出てこない「吃音」を克服していく過程を描いた『英国王のスピーチ』という名作映画もあった。
しかし、ピーター・モーガンの原作・脚本で、アメリカ合衆国とイギリス合作のテレビドラマシリーズ『ザ・クラウン』は、現存の人物たち扱っているからすごい。
エリザベス2世とチャーチル、サッチャーなど政界実力者との確執、王室のロマンスや人間模様を、そっくりな俳優たちが重厚に描いている。
もちろん、少しぼかしているところもあるが、女王と夫君エジンバラ公の夫婦げんかやすれ違い、互いが好意をもった男女も出てくるし、妹のマーガレット王女やチャールズ皇太子とダイアナ妃にも容赦ない。
日本に焼き直したら、上皇陛下ご夫妻の夫婦げんかから、陛下と秋篠宮殿下の子どものときからの複雑な感情のもつれ、皇后様の病気や愛子さまの学業での問題、佳子様と紀子妃殿下のダンスサークル活動をめぐる親子げんか、眞子様と小室圭氏の合コンでの出会い、三笠宮寛仁殿下夫妻の別居、妃殿下たちの実家のスキャンダルまで出てくるようなものだし、皇室についてのスクープをどのようにしてジャーナリストたちが得て記事にしたかも実名で描かれることになる。