ドラマで描かれている女王と政治家との確執

政治家とのやりとりも見もので、チャーチルが若い女王やエジンバラ公を父親代わりのように厳しく教育し、それがエリザベス女王を“堂々たる女王”に育てた鍵であることも描かれる。とくに、一目惚れで熱愛し結婚したエジンバラ公を、女王の夫にふさわしい特別の立場にしたい女王に対して、チャーチルが自意識が強すぎるエジンバラ公を警戒し、女王の希望をことごとく打ち砕いていった経緯が残酷なほどに描かれている。

日本でも女帝を認めるなら、その夫君の扱いがどれだけ難しいか、国家の安定に関わるかを、私はこれまでも論じてきたが、どうしてそうなのか、理解してもらえない人にこのドラマを見てもらうと、たちどころにご理解いただいている。

女王の妹で、現在のヘンリー王子なみにお騒がせ者だったマーガレット王女は、タウンゼント大佐という離婚経験者の軍人との結婚を望んだが、英国政府は軍人である彼を海外勤務に出し、任期が終わって帰国しても、あらゆる手段でそれを阻止した。

エジンバラ公の母親は難聴や統合失調症に悩み、家族と別居してギリシャ正教の修道女となり貧しい人たちのために尽くしていたが、ギリシャ王制が倒れたのちはバッキンガム宮殿で聖女のように暮らしていた、といったあまり知られていないエピソードも描かれる。

エリザベス女王の娘で、五輪に馬術選手として出場したこともあるアン王女は、前向きな性格に描かれていることで国民の支持率も急上昇している。

同年代の女性同士であるサッチャー首相と女王は、さまざまな場面で対決した。サッチャー首相は、王族の集まるレクリエーションに招かれた際、貴族の風習を知らずに散々恥をかかされたし、英連邦加盟のアフリカ諸国首脳に対するサッチャーの見下した態度に、女王は怒り抗議する(エリザベス女王は連邦加盟各国の多くにとって、それぞれの国の女王でもあるから、英国女王としてではなく、それらの国の君主でもあるから当然だ)。

しかし、このドラマで描かれている女王と政治家との確執も、少なくとも両者が没交渉であるよりは、互いにいい影響を及ぼしているのもよくわかる。女王にとって“君主はいかにあるべきか”を教育し指導するのに、もっともふさわしい存在は首相以外の誰でもないし、首相にとっても代々語り継がれてきた教訓を学び、歴代の首相の行いを見続けている女王は最高のアドバイザーだからだ。

日本でも摂政・関白はそういう役割をしてきたし、少なくとも戦前までの首相はそうだった。それが没交渉になっているのが、昨今の皇室をめぐるお粗末なお話しの原因であることは間違いない。

外交での王族の活躍ぶりも興味津々だ。英国がポンド切り下げに追い込まれそうになったとき、マーガレット王女はジョンソン大統領とパーティーを開いて、大酒飲んで自分はケネディ前大統領が嫌いだと言い放ち(ジョンソン大統領はケネディ人気をものすごく妬んでいたので大喜び)、猥談をさんざんしたあげく、大統領とダンスまでしてアメリカの経済支援を引き出したというエピソードもあった。

イギリス王室の暮らしぶりも丁寧に描かれている

昭和天皇も登場する。皇太子時代の外遊でプリンス・オブ・ウェールズ時代のウィンザー公(エドワード8世として即位後、シンプソン夫人との王冠をかけた恋で退位)に世話になったというので、パリのブーローニュの森に隠棲しているウィンザー公を欧州訪問の際に昭和天皇が訪ねた。

それをウィンザー公は、日本の天皇までがこうして訪ねてきたのに、姪である女王は見舞いにも来ないと世論を誘導し、エリザベス女王はしぶしぶ死の直前の元国王を訪問したというわけだ。

▲イギリス王室の暮らしぶりも丁寧に描かれている イメージ:未来 / PIXTA

エリザベス女王の馬とか狩猟への情熱も描かれるが、これを見ると英王室が中世の騎士時代の生活様式への愛着が深いこともわかるし、マーガレット王女のチェーンスモーカーぶりは、喫煙場面を避けるテレビで久し振りに見る風景だ。

私の家内は、エリザベス女王の四連真珠の見事なネックレス(真珠は日本政府の贈り物)など有名な宝飾品の数々の登場や、とても訓練の行き届いた犬たちにも興味津々だった。

シーズン6まで製作が発表されている『ザ・クラウン』だが、現在はダイアナ妃とチャールズの仲がおかしくなってきたシーズン4までを見ることができる。

2022年には新シリーズが始まるが、撮影ロケで誰がどんなファッションで登場したなどニュースになっているし、第6シーズンあたりになると、ヘンリー王子とメーガン妃の物語も取り上げられるはずだ。

どのくらい事実なのか、ある政治家が英国人の政治家に聞いたら「まあ、だいたい本当だ」と言っていたそうだが、イギリス王室について『日本人のための英仏独三国志』(さくら舎)など書いたりしている私の眼から見ても、日本の皇室ジャーナリストの著書などよりは、何倍か真実に近いと保証できる。