下駄の鼻緒に使用したというメクラウナギを食す

「ウナギの肝吸い」は、ウナギ料理の中ではよく知られた澄まし汁である。名の知れた老舗の鰻屋の料理長に、本格的な肝吸いの作り方を教えてもらったので述べることにする。

▲肝吸い 出典:ペイレスイメージズ 2 / PIXTA

肝吸いには、なんといっても新鮮な肝が第一で、次に出汁のとり方だということである。2人前の材料での出汁の作り方は、鍋に水(350ミリリットル)と昆布(5センチ×10センチのもの)を入れ40分ほど浸ける。それを中火にかけ、沸騰する直前に昆布を取り出し、火を止めて、削り立ての鰹節(10グラム)を入れ、5分ほど置く。

これを耐熱ボウルにザルをのせ、キッチンペーパーを敷いてこす。それを鍋に移し、醬油(小サジ1)、日本酒(大サジ1)、塩(少々)を足して弱火を加え、そこに下処理をしておいた肝を入れ、ひと煮立して出来上りである。

これを椀に取り、数片の三つ葉を浮かす。肝の下処理は、4個の肝を用意し、緑色の苦玉を潰さないように取り外し、筒状の部分を包丁の背でしごき、血の塊や汚れを取り除く。それを流水でやさしく洗い、鍋に沸かしておいた、ごく薄い塩水に数秒間さっと湯通ししてからザルに上げ、流水で洗ってよく水気を切って、下処理は終わりである。

このようにして作った肝吸いは、鰻丼や鰻重の重厚な旨味と濃いめの甘辛さ、そして脂肪のくどさなどをしずめるのに格好な澄まし汁となるのである。

ところで、そのウナギの肝といえば、我が輩はたいそう珍しいものを食べたことがある。それがまた、とてつもなく美味だったので今でもはっきりと覚えているのだ。材料は鰻屋で食べる鰻ではなく、メクラウナギという、やや深い海にいる体長50センチぐらいの鰻であった。

このメクラウナギは、形はウナギに似ているが、実はウナギ科ではなく、ヌタウナギに属する円口(えんこう)類の魚である。目が退化して皮膚に埋もれているから、このような呼び方がある。

▲ヌタウナギ 出典:shimane / PIXTA

皮がとてつもなく丈夫にできているので、昔はそれをなめして下駄の鼻緒に使ったり、安価なハンドバッグに利用したりしたそうだ。そのような目的で捕られた魚であるから、肉はむしろ副産物で、乾燥したのがたまたま手に入ると、それで出汁をとったという。

だが、活きのいい肉は飴色の半透明で、さっと焙って味醂醬油かショウガ醬油をつけるだけで、滋味豊かな肴になるという。淡水のウナギのような泥臭さはなく、ポクポクとした感じで、牛か豚のレバーの串焼きを思わせるものであった。

すると、もっとうまい食べ方があるというので賞味させてもらったのが、なんと“すき焼き風”の肝料理であった。丸い鉄板鍋に油を引き、焼き豆腐とネギの斜(はす)かけ、シイタケなどをジリジリと焼き、そこに肝を10個ほど入れて醬油、酒、味醂、割下で調味して食べたのである。

珍しい肝のすき焼きだったのだが、これがまた大変にコクがあって絶妙だったので、ペロリペロリペロリと舌なめずりしながら、3人前は舌を滑っていったことを覚えている。

※本記事は、小泉武夫:著『肝を喰う』(東京堂出版:刊)より一部を抜粋編集したものです。