農学者であり発酵学者でもあり、食について多くの著作を発表している小泉武夫教授は「世界一の肝喰い」を自認する。これまで食してきた肝のなかから“絶品肝”を取り上げ、その扱い方や食べ方、肝の魅力を述べつつ肝料理談義を展開。小泉教授が“肝そのものが圧巻”と語る「真鱈」、そして鱈の仲間である「ドンコ(鈍甲)」のこだわりの食べ方とは?
不老長寿の妙薬!? 真鱈を煮込んだ「じゃっぱ汁」
真鱈の肝は圧巻そのものである。姿もよいし形も大きく、そのうえ、脂肪の乗り方が異常なほど濃いので、その肝臓から肝油が採取されることぐらいは誰もが知っている。
とにかく油まみれの肝なのだが、最近の研究では、その油の中にスクワランという物質があって、これが不老長寿の妙薬だというので、鮫と共にその肝油が注目されているのである。
激しく吹雪く津軽の鰺ヶ沢(あじがさわ)で、荒れ狂う日本海を睨みながら地元の酒豪3人と共に鍋を囲み、茶碗酒をあおったときの鍋が「じゃっぱ汁」という鱈鍋であった。これは濃厚豊満猛烈といった鍋で、巨大な真鱈の1匹全部を内臓もろともブツ切りにし、野菜や豆腐などと共に味噌仕立てでグツグツ煮込んだものである。
「じゃっぱ」とは津軽弁で「雑把」のこと。いろいろな材料を煮込んだもののことをいう。真鱈のじゃっぱ鍋には、当然立派な肝もデンと入っているから、その肝から出る油でじゃっぱ汁はこってりとしていて、なんだかドロリと淀んでいる感じがするほどすごいものであった。それをすすると口中にあふれるくらいにコク味が広がり、濃いうま味も口中で“はしゃぐ”ほどだからすごい。
たまらず丼で数杯おかわりして、うまかった、よかった、またやっぺなどと感激して、床に就いて30分もしないうちに突然の腹痛。急いで便所に駆け込んでピュッと放ってほっとして。そしてまた床に就く前に突然に催して、また便所に走っていって少し落ちついて戻ってきて、床に就くとすぐにまた催す。こんなことを続けてとうとう朝が来た。