2021年末現在も新型コロナウイルスの影響により、街中で外国人を見かける機会は少ない。しかし、こうした状況下でも、日本の土地が中国資本によって次々と買収されている事実をご存じだろうか。とりわけ懸念されているのが「安全保障上重要な土地」の購入だ。日本を蝕む中国から身を守る方法を、元内閣官房参与で京都大学大学院教授の藤井聡氏が解説する。

※本記事は、藤井聡:著『日本を喰う中国 -「蝕む国」から身を守るための抗中論-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

米軍基地の周りも中国人が買っている

筆者は防衛省が設置する「防衛施設整備に関する有識者会議」の座長を担当しているが、その関係もあり、大学の研究でも「防衛施設」についてのさまざまな観点から調査、分析を進めている。そのなかの重要論点の一つが、自衛隊や米軍の基地など安全保障上、重要な施設に隣接する土地が、外国人に購入されているという問題である。

この点について、諸外国ではなんらかの規制がかけられているのが一般的である一方、日本には長年、なんの規制もないという状況が続けられてきた。

これは安全保障上、極めて危険な状況だ。

政府・国会でも、こうした問題はさまざまに取り上げられ、政府は自らが行った調査を通して、中国などの外国資本が関与した可能性がある買収や売買計画が、少なくとも700件存在することを明らかにしている[「産経新聞」2021年5月13日]

▲米軍基地の周りも中国人が買っている イメージ:Yuzurugima / PIXTA

確認されたのは、自衛隊や米軍の基地、海上保安庁や宇宙開発関連施設などに隣接した土地の買収や、その計画であった。こうした土地のなかには、対象地の全景が一望でき、日米の艦船や航空機の運用や、関係者らの動向が把握される恐れもある土地が含まれていた。

たとえば神奈川県では、中国政府に関係があるとみられる人物が、米軍基地直近の土地を購入し、マンションを建設していたことが判明している。また「米系資本」を名乗るものの、実際には「中国国営企業の関係者」と見られる人物が、米軍基地が見渡せる沖縄県の宿泊施設の買収を打診した事例も報告されている。

狙われる原発、そして水資源・・・

こうした、政治的な目的で外国人に購入されている重要施設周辺の土地は、防衛施設や基地以外にも「原発」がある。

▲泊原子力発電所 出典:hide k / PIXTA

北海道の泊原発では、その周辺の土地を中国資本の貿易会社が購入しようとしていた事案があったことが報告されている。この件について、個人投資家でもある作家・山本一郎氏が調べたところ、直接取材ではビジネス投資の目的で購入したとは答えていたものの、泊原発以外にも、秋田や新潟などの全国のさまざまな地域の「重要施設」周辺の物件情報も合わせて収集していることが、その後の調べで明らかになっている[山本一郎『「原発・基地周辺の土地」を、中国人らが購入している問題の「深い闇」』現代ビジネス 2021年6月30日]

こうした問題が、最初に世間的に大きく認識されるようになったのは、2010年に北海道が外国資本による森林の売買状況の調査を行ったときであった。それによって、道内の計406ヘクタール、野球グラウンドにして406面分が、すでに外国資本に買われていたことが判明した。

この問題について、北海道議会が政府に提出した意見書には「我が国における現行の土地制度は、近年急速に進行している世界規模での国土や水資源の争奪に対して、無力であると言わざるをえない」と明記された。

その後、こうした買収の主たる目的が「水資源の確保」のためであるか否かには諸説あるとの指摘もあるものの、単なるビジネス目的を超えた中国人による買収が多数含まれていることは、どうやら間違いなさそうである。

先に紹介した山本氏の取材報告によれば、そもそも2017年ごろまでに北海道内で取引された外国資本による森林買収は160件あまりで、そのうち重要施設の付近にあると見られるのが35件あったのだが、その35件の内の30件は本当の買い手が誰であるのか登記を調べてみてもよくわからない事案だったという。

そして、それらの不明瞭な案件の多くが、空港や自衛隊施設等の重要施設の周辺の森林であり、かつ、そうした事案に限って買い手が一体誰かわからない「怪しい」ケースが大半であったと報告されている。

さらに、こうした「怪しい」ケースの買い手をより詳しく調べてみると、海外で勤務する「中国人民解放軍」に所属する人物であることが判明したこともあったという。

ビジネスを超えた、水やエネルギー、そして防衛といった安全保障の観点からの中国による北海道の森林買収は、着実に進められているのである。

▲北海道の森林が危ない イメージ:YsPhoto / PIXTA