入院中のコヌマの様子

ちょうどよい素敵な経験のお話がいくつかあるのです。入院中、高熱を出したせいで、熱の原因を探るべくレントゲンを撮っていただくことになった。そして、レントゲン室は、外来にある。入院中、自室が生活圏内の全てであるわたくしが、その部屋まで歩行可とされ、久しぶりの(レントゲン)散歩に、女性の医療助手さんが付き添ってくださった。

熱を出しているとはいえ、久方ぶりにちょびっと散歩をすると、やはり気分が良い。医療助手さんと、ただ歩いている時間、ただ待っている時間が何度か訪れたので、少し雑談をさせていただいた。当たり障りのない質問をしてみたり、季節のお話をしてみたりと、病棟へ戻る時になると、もうすっかり打ち解けていた。

そして、職員さんと一緒でないと入れないエレベーターに乗せてもらい、わたくしは熱のことなど忘れて大興奮してしまった。

なんて素敵なエピソードだろう。エピソードはもちろんビューティフルだ。それ以上に病棟へ帰った時のあの、わたくしの心の中の晴れやかな気分は、なんとも形容しがたかった。思わず、医療助手さんと別れる際「今日はとてもいい日になりました。ありがとうございます」と一言余計を付け加えてしまったほどだ。

なお、熱の原因は未だに不明だが、微熱まで下がっている。大したことでもないので伝えそびれていたが、この連載は「それでは、中継つなげてみましょう、某病院に入院中のコヌマさーん!」からのお届けである。それゆえ、ここに載せられる話の数々は、先日のコヌマではなく、わりとリアルタイムのコヌマだ。だからといってどうということはない。「なういコヌマが読めるなあ」くらいに思っていただけると、ちょっと幸せが積み重なるやもしれぬ。ひとつ宜しくどうぞ。

▲コロナワクチン接種後の解熱鎮痛剤として一気に有名になったカロナール。入院中の熱もこのコロナ―ルのおかげで下がりました。

楽しんでいる人の周りは、もっと楽しいをくれる

体調も体調だし、行動の制限もあるし、いろいろな人に迷惑はかけているし、「負」を挙げ始めるとキリがない。しかし、お医者さんとともにしっかり治療し、心身に余裕が出ると、楽しいことを楽しめる、というご褒美が待っている。楽しいことを楽しんでいる人の周りは、案外それを察知し、もっと楽しいをくれる。漠然としているが、根拠はある。以下に示す。レポートのやりすぎでアタマが少々かたくなったみたいだ。ユーモアであふれすぎてヤワヤワアタマのわたくしは、少々かたくなるくらいがよい。

主に心の健康面の話だ。おココロはだいぶしんどくなっていたので、入院してしまったわけで、こちらもすぐには回復せず、右肩上がりに良くはなるものの、その度合いをグラフにしようと思ったら直線ではない。線がたくさん折れ曲がりながら上昇している。そのグラフが右へ進むほど、趣味に費やせる時間も線が右肩上がりになるのだ。

入院前は全く読むことができなくなっていた本の活字が頭に入ってくるようになった。母とLINEをしながら、ネットショッピングを楽しめるようになった。夢中になっていると、ある日、祖母からお届け物が来たのである。この、祖母というのは実はわたくしのnoteというところで文章に著したことがある。あの、素敵な自慢の祖母だ。

そのお届け物というのは、欲しかったにも関わらず在庫切れで、再入荷した際に購入しようと思っていたルームウェアであった。パジャマと打ちかけて、気取りたかったのでルームウェアとわざわざ書き換えた。本当にうれしくて、もったいぶってロッカーにしまっている。そして、ついさっき知ったのだが、受け持ちの看護師さんが先日入籍したばかりらしい。おめでたいお話を入院中に聞けるなんて想像だにしなかった。取り急ぎ、手元にあったメモ帳で簡易な祝福のお手紙を送らせていただいた。

▲祖母が届けてくれたお気に入りのルームウェア

もちろん、ここへは到底書けないようなつらいこともある。療養中とはそういうものだ。全ての病気と闘う皆さまを褒め称えたいと心の底から思う。しかし、人生はなるようになる。何事も天災と思いなさいと、落語「天災」でも語られていた。同じ時間を過ごすなら、天災への備えを手早く確実に済ませ、あとは幸せに過ごしたいと、今のコヌマは強く自分に念じている。皆さまも参考までに。

話は少し逸れるが不思議なもので、ニュースクランチさんの連載を開始させていただいてから、文章で自分のエトセトラを伝えるというのは、わたくしにとって手っ取り早い手段だと気がついた。トッテテットリバヤイ、まるで早口言葉だ。以前、ひょっこり連載に登場した父とは、数年前は犬猿の仲であった。しかし近頃コヌマは、得意の(まだまだ修行途中なり)文章を駆使して、心の底に潜ませている父への感謝や、話してみたかったことを徐々に伝えている。

するとどうだ、父からも小っ恥ずかしい、ムスメへの思いを伝えてくれたではないか。歩み寄りは、自分から。これ、鉄則。肝心の「父からムスメへ」は、一身上の都合、わたくしの心に留めさせて貰う。

某病院からは以上です。またどこかの文章媒体で、未公開入院記録を書かせていただくだろうと思う。なんていう締めくくりの連載をするなんて、これ微塵も思っていなかった。天災が、天才的なネタを生み出してしまった。読んでくれてどうもありがとう。そして、読者の皆さま、編集者さん、マネージャーさん、エトセトラさん、ご心配をおかけして、申し訳ございませんでした。


プロフィール
 
小沼 綺音(こぬま あやね)
2000年3月18日生まれ。東京都出身。「小学生に間違えられる」という見た目とは裏腹にクールで大人びた視点を持つ。リアクションや言葉のチョイスが面白く、番組で共演する芸人からの評価も高い。『青春高校3年C組』では軽音部に所属し、キーボードを担当していた。Twitter(@ayane_karona_ru)