田村さんのアドバイスを聞いていればよかった
リフレという言葉もあります。こちらはリフレーションの略語で、『広辞苑』には〈景気循環の過程で、デフレーションから脱し、しかもインフレーションにまでは至っていない状態。不況における物価下落を正常水準まで引き上げて生産を刺激し、景気を回復させることを目的とした計画的な通貨の膨張。〉とされています。
「リフレ政策」という言葉を耳にしたかもしれません。これは量的緩和や円安誘導などのマクロ政策の推進で、有効需要を創出すると同時に、緩やかで安定的なインフレ率を目指す政策です。簡単に言えば、物価を上げるということなので、有権者から反発を食らいます。
アベノミクスが展開される前に、自由民主党の石破茂さんと意見交換したことがあります。リフレ政策というか「金融と財政の両輪をどんどん回して、デフレから脱却しないといけません」と言ったら、石破さんは「それはできません。有権者が納得しないからです」と否定されました。生真面目で誠実な政治家の石破さんがこんな調子では、政治がいつまでもデフレを容認してしまうと私は焦りました。
そこで「いや、デフレは有権者にとって恐るべき打撃があるのです。デフレの時代に日本で何が起きているかというと、物価はたいして下がっていません。それ以上に賃金が、所得が下がっている。
デフレによる内需減退は、物価の小幅な下落を引き起こすばかりではありません。売り上げと収益減に直面する企業は、人件費を仕入れコストが下がる幅よりも大きく圧縮させます。
だから、内需萎縮の元凶であるデフレから脱する必要がある。そのためのリフレ政策で、物価上昇率をプラスにしなければならないのです。一時期は苦しいかもしれないけれど、それを乗り越えれば所得が上がって希望が湧いてきますから」
と言いましたが、石破さんを説得し切れませんでした。
2012年秋の自民党総裁選で安倍晋三さんに敗れたあと、石破さんの盟友で、ある議員さんの支持者たちの会合に私が呼ばれて講演したとき、石破さんが駆けつけてきて、みんなの前で「田村さんのアドバイスを聞いていればよかった」と率直に述べられました。
でも、石破さんは未だに「脱デフレに全力を挙げる」とは表向きには仰らない。安倍さんの二番煎じはしたくないのかもしれません。
安倍さんとは、ちょうどアベノミクスが始まる1年くらい前に話しました。拓殖大学のシンポジウムで演壇に並んで討論したのです。安倍さんは、脱デフレのために金融を緩和すべきだと力説されていました。それが初期のアベノミクスにつながったのだと思いますが、安倍さんは財政よりも金融の量的緩和に重点を置かれていました。
アベノミクスも、最初は金融緩和と機動的財政出動を組み合わせて、デフレ脱却の兆候が見えるところまでいったのですが、消費税の増税と緊縮財政で元の木阿弥になってしまいました。
25年かけて衰退していった日本の国力
世の中には、元手があるために株で儲けて、節税に励んで、おいしいものを食べて、ぬくぬくと暮らせる既得権益者がいます。この人たちが悪いわけではありません。こういう人たちを責めても仕方がないです。
一方で、今から頑張ろうとしている人たちには希望がなくてはいけません。じつは政治の要諦はそこにあります。チャレンジができるような社会基盤をつくること。これは経済を大きくさせることです。即ち経済成長をさせることが、政治家の最大の使命と言えます。経済を成長させられない政権は失格です。
それを前提とすると、日本の政権はここ30年間、ずっと失格だった。その間の平均経済成長率を見ると0.7%です。
「アベノミクスは成功だ」と言う人もいますが、アベノミクスの7年間は「ちょっとまし」という程度で、世界標準で見ると全然ダメです。最初の年である2013年が最も高く2.7%。加えて、世界標準はどうしてもドル建てになるから、円安だと日本にとっては分が悪いのです。
ドルが世界の標準通貨で、各国通貨の尺度であり、価値を決めるのです。つまり、その通貨がドルにどれだけ交換できるかに尽きるわけです。ドルに交換して、換算した日本の名目GDPは、1995年が5.5兆ドルくらいでした。そして2020年は5兆ドルに満たないくらいです。25年かけてこんなに減っているということは、国力がそれだけ衰退しているということなのです。