日本人の税についての関心度は高くない。それと同時に、国家としても経済政策の柱がない日本政府。原因を探るうえで重要なキーワードとなる「税」「政治」「財務官僚」などの観点から、日本経済の問題点を産経新聞特別記者の田村秀男氏が解き明かします。
※本記事は、田村秀男:著『「経済成長」とは何か -日本人の給料が25年上がらない理由-』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
所得税・法人税と消費税の違い
景気が悪くなると税収は減ります。一方、家計はというと、子どもたちを食べさせないといけないし、最低限は使わないといけないことがいくつもあります。したがって不況になっても、家計の支出は大きく変わりません。そのため消費税の税収は、それほど減りません。つまり、所得税や法人税は景気の良し悪しで乱高下がありますが、消費税はあまりない。
これが財務官僚としては“しめしめ”なのです。いちばん見通しが立ちますので。だから政治家に対しても、盛んに「消費税の税率を上げたら、確実に財政収支の悪化を防げる」「社会保障費になる」と甘い囁きをする。
さて、一方で消費税を上げる代わりに、所得税や法人税、ほかの税金を下げるという発想は財務省にはないのか、と思われるかもしれません。実際、アベノミクスで法人税減税をやりましたが、これは経団連と取引したのです。「消費税を上げることに賛成すれば、法人税を下げてやる」と。
じつは、そこにはもうひとつ約束がありました。「法人税率を下げるなら、企業は国内投資を増やす」はずだったのに、実際には国内投資はほとんど増えていません。こんな嘘つきはダメです。道義というものがあります。いみじくも「国内投資を前年比で10%増やす」と約束したのだから、それは守りなさいよと言いたい。
ある種の倫理観や「国民経済をよくしないといけない」という国家観は、財界にはないということでしょう。国民経済がいいからこそ、企業(その大小は問わず)の経営は成り立つわけです。だから、きちんと貢献しないといけないと思います。
日本とアメリカの税意識の違い
例えば、アメリカ人と日本人の税意識の違いは大きい印象があります。アメリカ人は自分の払った税金がどう使われているかにすごく関心が強い。一方で日本人は一般的に弱い。
これには徴収制度の違いが大きく影響していると思います。アメリカでは、サラリーパーソンでも「タックス・リターン」といって、確定申告をやります。日本のような源泉徴収はないのです。だから税理士に相談して、きちんと税の申告書を書かないといけません。
つまり、アメリカ人は自分の税の納付額を正確に把握していて、経費がいくらで、還付金はこれだけあったと全部わかってるわけです。
当然、彼らはできるかぎり節税するでしょう。ただ、アメリカでは「脱税をやった」ことがはっきりすると、市民権を失うくらいのモラル違反になります。税金を取る側、国や州の政策に対して厳しいと同時に、税を不正に逃れる者にも厳しい……それがアメリカです。
一方、日本人の税の使われ方に対する意識は、希薄というか他人事になっている印象が強い。この主たる原因は源泉徴収があることでしょう。わたしもサラリーパーソンなので理解できます。給与明細に正確に記されているとはいえ、支給される金額は税金を差し引いたあとのものです。だから「税金を取られている」という実感があまりない。それゆえ、自分の払った税がどういうふうに使われているかということを追求しない。
だから、消費税が上がるときも「しょうがないんじゃない」「社会保障費、足りなくなるし」みたいな感じになってしまいます。これでは財務省の思うつぼです。