タチウオの内臓を使った代表的な料理「道具煮」
ハモに似た魚で、ハモよりも大きく鋭い歯を持ったタチウオ(太刀魚)の肝も、ハモ同様に食べられている。
よく知られているのが「タチウオの道具煮」というもので、タチウオの肝、胃袋、卵、白子、浮き袋といった内臓(道具ともいう)を一度日本酒に漬けてから醬油、味醂、砂糖で甘辛く煮つけ(このときにシイタケを入れると一層うまくなる)、出来上ったものに粉山椒を振りかけて食べるのである。
この道具煮での主役はやはり肝で、数人で食べるとき、まっ先に箸をつけ、なくなってしまうのはいつも肝だということである。
タチウオのよくとれる漁港近くの人たちは、「タチウオの肝の塩焼き」あるいは「柚(幽)庵焼き」で賞味することが多い。新鮮な肝を熱湯にくぐらせてから氷水にさらし、身を締めたのちに水分を拭き取り、串に刺して塩を振り、炭火でこんがりと焼き上げたのが塩焼き。
醬油1と酒1と味醂1で合わせた調味液に柚子の皮少々を入れて、そこに肝を30分くらい漬けてから焼いたのが柚庵焼きである。この調味液で煮つけてもおいしいが、これは柚庵煮である。
「タチ肝の潮汁」は、鍋に昆布、酒、水を入れ、そこにタチウオの下処理のときに出た中骨を素焼きした焼骨を加え、さらにショウガの薄切りと長ネギの緑色の部分(葉)のぶつ切りを入れ、中火で20分ほど煮て出汁をとる。それを漉(こ)して別の鍋に移し、その澄まし汁へあらかじめ湯煮して中心まで火を通しておいた肝を入れて、再度温めて、最後に醬油を垂らして味を調え潮汁とする。
吸い口は山椒の葉か柚子皮で、吸い口を使わないときには粉山椒か粉コショウを振り込むとよい。タチウオやハモといった大きくて長い魚は、移動するときに体をクネクネと動かして泳ぐので、骨は常に運動を強いられ、したがってそこには骨を支える筋肉をスムーズに動かす成分が蓄積されているという。
そのため骨を煮出すと、アミノ酸やコラーゲン、ゼラチン、ペプチドなどの出汁の成分がどんどん出てきて美味になるということである。タチウオの骨を煮出してとった出汁で肝を喰うのであるから、その味は絶妙になるのである。
「タチ肝の佃煮」は、長く保存できる酒の肴、あるいは飯のおかずなので、便利なものである。肝に付属している浮き袋を切り離し、肝を熱湯に入れて臭みを取る。湯を切ったあとに肝を鍋に入れ、日本酒を加えて火にかける。
酒が沸とうしてきたら、醬油、味噌、砂糖、ショウガの千切りを入れて弱火でじっくりと煮詰め、タレがとろりとしたところで全体を絡め和え、出来上りである。ちょうど鰻の肝の佃煮に似ているが、苦味やくど味もなく、とても食べやすい佃煮である。
酒の肴としては日本酒の純米酒の熱燗あたりが似合いそうで、また温かい飯のおかずにしてもなかなかの佃煮である。ショウガの千切りがとてもいいアクセントになって食欲を増してくれる。
※本記事は、小泉武夫:著『肝を喰う』(東京堂出版:刊)より一部を抜粋編集したものです。