食についての著作を数多く発表し、世界一の肝喰いを自認する小泉武夫教授が、これまで食してきた肝のなかから“絶品肝”を取り上げ、その扱い方や食べ方、肝の魅力を述べつつ肝料理談義を展開。肝は魚だけじゃない、今回は皆さんにも馴染みが深い牛レバーを紹介。調理法としてはレバニラが有名ですが、そのほかにも牛レバーを使った絶品レシピがあるそうです。 

手軽でも本格派「牛レバーの前菜」 

酒吞みに言わせてもらえれば、本格的な料理はじっくりあとで楽しむから、取り急ぎ酒のあて、すなわち前菜を早く出してくれないか、というのが本音である。

それも、いい加減なオードブル、例えばサラミソーセージを薄く輪切りにしたものとか、チーズの盛り合わせ、あるいは柿の種や裂きイカとなると、もう食指は萎える。ぜひ手を加えて、愛情深き前菜をと、勝手なことを言っている我が輩である。

▲牛レバーを使った絶品レシピをご紹介 イメージ:ilianesolenyi / PIXTA

そこで、いつ客が来てもOK、自分がとっさに飲みたくなっても大丈夫という前菜を、我が輩はつくって備えておく。それが「牛レバーの前菜」だ。

下処理の終わった牛レバー(200グラム)を、切りやすいようにラップで丸く棒状に包んで冷凍庫で半解凍の状態にする。つまり、レバーの表面が凍って固くなるまで冷やすのである。

次に醬油(大サジ2)、砂糖(小サジ1)、酢(大サジ1)、ゴマ油(小サジ2)、豆板醬(少々)を混ぜ合わせて、合わせ調味料をつくる。ニラ(1束)とモヤシ(1袋)をさっと茹で、水にさらしておいてから軽く搾っておく。ニラは長さ約3センチに切り、モヤシと共に冷やしておく。

長ネギ(1本)、ショウガ(1かけ)、ニンニク(1かけ)は、薄切りにしてからみじん切りにする。合わせ調味料に長ネギとショウガとニンニクを加える。

レバーを冷凍庫から出し、3ミリぐらいの厚さに切る。そのレバーをたっぷりの湯で茹でる。箸でかき混ぜながら沸とうしたらザルにあける。水気を十分に切ってから、熱いうちに合わせ調味料と和える。皿にレバーを取り、周りにニラとモヤシを添えて完了。

この「牛レバーの前菜」は、長く可愛がっていただいた著名な編集者の故・小石原昭(こいしばら あきら)先生に教えてもらったもので、本格的な前菜であるが、実においしく、洗練された料理である。

我が輩に言わせれば、前菜というよりは本格料理に入るほどのもので、日本酒・焼酎・ビール・ウイスキー・ワインなど、どんな酒にも合う。

胃袋をわしづかみ「牛レバーと高菜漬けの炒めもの」 

我が廚房「食魔亭」にレバー料理大好きの仲間が来るとなれば、用意するのは「牛レバーと高菜漬けの炒めもの」である。

血抜きをした牛レバー(350グラム)をひと口大の薄切りにし、水気を拭いてから片栗粉(大サジ1)をまぶし、それを湯で少し(5〜6分〈ぶ〉程度)茹でる。高菜漬け(大2枚)は一度洗ってから細かく刻む。

鍋に油(大サジ2)を熱したら、みじん切りのニンニク(1かけ)とショウガ(スライス2枚をみじん切りにする)を入れて炒め、香りが出てきたら高菜漬けを入れてひと炒めする。レバーを加えてさらに炒め、レバーの中まで火を通す。そこに豆板醬(小サジ1)と老酒(大サジ1)、赤ワイン(大サジ1)を回し入れ、さらにダシ汁(大サジ2)、砂糖(小サジ1)、コショウ(少々)を加え、最後に片栗粉(大サジ1)でとろみをつけて出来上りである。

高菜はカラシナ科の越年草で、コマツナやカツオ菜に近い漬け菜である。平安時代の『和名抄(和名類聚抄)』に「タカナ」の記述が見られ、すでに塩に漬けて食べられていた。

今は、佐賀県の有田高菜や熊本県の阿蘇高菜、福岡県の三池高菜などがよく知られており、塩漬けにして、乳酸発酵させて食べるのが高菜漬けである。漬け上げた状態の長いまま売られているものと、細かく刻んで売られているものがあるが、この「牛レバーと高菜漬けの炒めもの」は、どちらを使ってもよろしい。

この漬物は、味わい深いうま味と爽やかな酸味を持ち、油で炒めるとぐっと風味が増しておいしくなる。そのため高菜チャーハンなどはとても人気がある。 

出来上ったこの料理を食べると、先ずレバーからは、例によって実に奥の深いうま味と幅のあるコクが出てくるのであるが、これまで述べたレバーの料理にはない、とてもすっきりとする味わいがある。それは高菜漬けから来る酸味のためで、これがレバーの濃厚なうま味をマイルドにしてくれるのである。

また、鼻孔からは、高菜漬けの牧歌的発酵香が抜けてきて、これまたレバーのおいしさを相乗的に滲出(しんしゅつ)しているのである。そのため、「食魔亭」を訪れた牛レバー大好き客は、レバーと高菜漬けとの相性に取りつかれ、350グラムのレバーを独り占めしてしまうのである。

▲阿蘇高菜畑 出典:涼然 / PIXTA