思いを込めた言葉だから信じられる

私たちが生きているのは勝負の世界ですから、常に勝利を目指しますが、当然負けることもあります。そうするとヘッドダウンしそうになったり、ネガティブな思いにとらわれることもあるでしょう。コーチの私でもそうなのですから、実際にプレーしている選手たちはさらにその思いが強いはずです。

そんなときは、もちろんダメだったところも伝えますが、そのうえで「そこを直せば、もっとうまくなれるよ」といったポジティブな言葉もかけています。選手たちにもう一度マインドセットさせて、また次に向かうわけです。ポジティブなところを絶対に忘れないで、と。

2019年にインドでおこなわれたアジアカップに向けた候補合宿でのことです。前年のワールドカップで世界デビューを果たした、赤穂ひまわりのパフォーマンスが全然上がってきませんでした。

自信がなさそうにプレーしていて、シュートも入らなかった。何度かチャレンジさせるようなことも伝えましたが、それでも調子は上がってきません。私は彼女にこう告げました。

「ひまわり、こんなプレーを続けていたら、このチームには入れないよ。仕方がありません。僕はあなたのプレーが好きだけど、あなたのプレーが上がってこないのであれば、このチームに入ることは無理です」

一読するとネガティブな表現にも読めるかもしれません。実際に彼女にとっても厳しい言葉だったでしょう。しかし、私は心から彼女のプレーが好きでした。彼女なら間違いなく女子日本代表の力になれる。そう思ったから、国際大会の経験が少なかった19歳の彼女を、女子日本代表候補に招集したのです。

心からの「好き」という言葉と、彼女にとって厳しいと思われる言葉を“あえて”つなげて思いを伝えたのです。

私の言葉に対して、ひまわりは奮起してくれました。その後、水戸市でおこなわれたベルギーとの国際強化試合で、彼女は彼女のやるべき仕事をしっかりと果たしてくれたのです。私からすれば、ようやく本来のひまわりが戻ってきたという感じです。

正直に言えば、あのままパフォーマンスが上がらなければ、私は本気で彼女をカットしていたでしょう。しかし彼女はヘッドダウンして、谷の底まで落ちていき、チームに入れるかどうかのギリギリまで追い込まれながら、頑張るしかないと立ち上がってくれたのです。

▲選手たちも思いを込めた言葉だから信じられる イメージ:Fast&Slow / PIXTA

もちろん、今でも日本語を間違えることはたくさんあります。笑われることもあります。でもそれで選手たちが和んだり、私の意図を汲んでくれて「トムは間違えても、私たちにわかるよう日本語で伝えようと頑張っている」という印象を持つ可能性もあります。それもリレーションシップを築くうえでは、悪いことではないのです。

繰り返しますが、たとえ言葉を間違えたとしても、その人の思いや意図が伝われば、それは決して悪いことではありません。逆に言えば、それらしい言葉をいくら並べたとしても、思いのこもっていない言葉では相手の心は動かせません。思いを込めたポジティブな言葉だからこそ、相手も心から信じてくれるのです。