パラリンピックの活躍を支えてくれた相棒

障がいの種類や体型に即したバランス性。激しい接触にも耐えうる耐久性。繊細な動きを実現する操作性。

競技用車いすは、もはや「車いす」でなく「マシン」といっていいほど精密な乗り物だ。

自分自身の能力を最大限に引き出す“相棒”を求めて、代表候補に入るような選手は、みなオーダーメイドの車いすに乗っている。

僕の車いすを担当してくれているのは、岐阜にある福祉機器メーカーの松永製作所。代表チームのメカニックを務める上野さんも、普段は松永製作所の社員だ。

接触や転倒が、日常茶飯事の車いすバスケでは、2年もすれば必ず、車いすのどこかしらが壊れる。他の代表メンバーは、年に1度くらいの頻度で買い替えることが多いようだが、「壊し屋」の異名を持つ僕は、半年くらいでどこかにガタが出るし、試合中に不具合が起きることも多い。

「お前の壊し方は予測がつかない」と笑う上野さんは、他の選手よりも多く、僕のスペアを用意したうえで大会に帯同してくれる。

自分の思い通りの操作を実現するため、僕は車いすを新調するたびに、ベルトの位置や座面の傾斜、背もたれの緩みまで細かくリクエストを出す。そのときに気をつけているのは、しっかりとコミュニケーションをとることだ。

技術者である上野さんの立場からすれば、微調整の際には細かな数字――例えば「座面の幅を50ミリ広げて」とか――まで出すのが当たり前だが、僕は「もうちょっと広げて」とか「ほんの少し下げて」と感覚レベルでしか要求できない。

この「ちょっと」のニュアンスを理解してもらい、思った通りの車いすを作ってもらうために、僕は上野さんと日頃からたくさん話をするなかで「専門家から見て、この車のポテンシャルはどうですか?」という質問をして、技術者側の考え方や思いを知るようにしている。

高さを追求しようと決めたときは、もちろん真っ先に上野さんに相談した。どういう段階を踏んで高さを上げ、どういうセッティングの車いすにするのがベストか、を綿密に話し合いながら、+20センチというサイズアップに成功した。

東京パラに向けた車いすを作るにあたっては、より高い操作性を実現するために「前方向に強く傾斜させてほしい」というリクエストも出した。

僕が求めた傾斜は常識外れのものだったようで、上野さんは「そんなに?」と驚いていたが、僕が意図を説明すると納得してくれて「バランスがとりづらくなったり、旋回性が悪くなるリスクがあるけれど、なるべく影響が出ないようにベストを尽くすよ」と試作を繰り返し、素晴らしいバスケ車を作ってくれた。

東京2020パラリンピックの活躍を支えてくれた人はたくさんいたが、上野さんは間違いなくそのひとりだった。

▲活躍を支えてくれた人たちに感謝 イメージ:Fast&Slow / PIXTA