あれ? 怒ってます?
みなみかわの芸風で印象に残るのが、冷めた視線と、どこか世を儚んだような態度。さらに、歯に衣着せぬ暴言だ。
「どこまでやったらOKかという“悪口の基準”が僕にあります。悪口は面白くないと意味がないんですよ」
悪口は誰にだって言うことができる。だからこそセンスが必要だという。
「必要なのは、聞いている人の『共感を生むかどうか』だと思うんです。僕はただ、ここおかしくないですか? と指摘しているだけ」
みなみかわにとっては悪口ではなく、問題提起なんだとか。
「たとえば『あの芸人のツイート、誰が面白いと思ってんのか』とつぶやいたとしたら、きっと言われた当人もファンも腹が立つでしょ。でも、それを怒らせないように上手に悪口にするにはテクニックが必要」
それはきっと、みなみかわの腕でもある。そして彼の悪口は共感を呼ぶ。
「いつも人を怒らせないようにトレーニングをしてるんです。怒ったら? それはそれで仕方ないですね(笑)。謝ります」
みなみかわが悪口にこだわる理由、それは理性で抑えていた人間の感情が揺れる瞬間に面白さがあると信じているからだ。
「むっとした顔や、貧乏ゆすり。怒りの兆しが見えた瞬間、もっと面白くしてやろうという心に火がつく。あれ? 怒ってます? もっと話を聞きましょうかって」
諦めると、うまくいく
芸人として詰んでいるという覚悟があるからこそ、どこまでも貪欲に挑戦できる。大きな転機は30代前半にあった。
「当時は諸先輩たちから、スタッフとの付き合いを大事にしろと教えられ、スタッフに好かれることで仕事が来ると信じていましたし、下手に出てたんです」
すると、距離感を勘違いして尊大な態度をとるスタッフもいた。売れている芸人は、その“いなし方”がうまいが、みなみかわはそれができなかった。
「理不尽にいじり倒されたり、酒の席で『ほら面白いことやれ』と無茶振りされ、頭をたたかれ、顔にマジックでいたずら書きされたこともありました。ある日ついに我慢の限界にきましてね。こいつをいわすしかない。“あ、俺の芸人人生はこれで終わりだ”って」
その瞬間、横にいたスタッフがそっと彼の手を握ったという。
「ここは押さえてください、と顔に書いてありました。帰宅して、いたずら書きを消すため洗面所で顔を洗っているところを妻に見られてね。その瞬間、何かが変わった音がしたんです」