今日で終わりという覚悟ができた
「同時に気がついたんです。あのスタッフは俺のことを生かしも殺しもしない。仕事も生活費もくれない。あいつは無だ! なんの得もないやつなんだ!って」
次の日から、スタッフに何かを言われても、平然と言い返すようになった。
「いつ辞めてもいいと思ってましたからね」
そう開き直ると、不思議なことに「あいつ面白いな」と言われるようになった。
「バイトすれば家族を最低限食わしていけるから、イヤなやつに媚びる必要はないんです。今日で終わりだと思って毎回収録に行ってました。今日で終わりなんだから、スベり散らかしても仕方ない。ここで終わりだし、スベっても前に行くしかないんです」
みなみかわの覚悟にスタッフも感じ入ったのか、緊張感を持ってみなみかわに接するようになった。お互いリスク背負うからこそ、いいものが生まれると知った。
誰もが目指さない笑いの道へ
深夜番組でブレイクしたみなみかわだが、「腐れ芸人」という枠に自分をはめるつもりはないという。
「ヒコロヒーとコンビを組んでM-1にも挑戦したし、活動の幅を広げていきたいです。あとはネタをもっと作りたい。(年齢的に)R-1に出れないのに、なんでネタなんですか? と聞かれたら、『自分の芸』が欲しいんだと思うんです」
これまでも営業に行くたび、代表的な持ちネタがないことで苦しんできたという。やはりヒキになるものがほしい。「芸を磨け」と説教した事務所の悪口を言ったみなみかわが、改めてその心境に至ったのはある意味皮肉でもあるが、世間が自分に求める役割に光明を見出せるかもしれない。
「僕の真骨頂は、人が言わないことをズケズケという無神経さにあるのかもしれない。悪口を楽しみにしているファンも多いし、悪口を言ったら『待ってました』という雰囲気になるんですよ(笑)。みんな心では思っているけど、自分では口に出したくないことを期待されているんです」
みなみかわが自分につけたキャッチコピーは「人しか傷つけない笑い」。だが、これもすべて露悪的な彼の照れ隠しともいえる。天邪鬼ではあるが、笑いにはストイックであり、同時に純粋さも持ち合わせている。
「中堅コンビのネタを書いてないほうにありがちなんですが、ボケに対してスカすMCがいるんです。自分も一緒にリスクを背負わないやつだったら、一緒にやる意味ないですよね」
同じ舞台に立って、損したと思われたらそれは悲しい。
「全力で滑ったほうがかっこいいでしょう」と目を輝かせる様子は、まるで少年のようだ。
稀代の反逆者は、これからも失敗を恐れることなく、あくなき挑戦を続けるつもりだ。
「みんなの記憶に何かを残したい。そんな青臭さもまだ僕の中にあるんです」
(構成:キンマサタカ)