「くわしくはわからないけれど、科学は大切だよね」。そう思っている方が日本人には多い。なので、一見すると“科学っぽいモノ”に惹かれやすい傾向があります。言い方を変えれば、科学とはまったく無関係であったり、論理が無茶苦茶だったとしても、“科学っぽい雰囲気”にはコロッと騙されやすくもあるのです。今回は、理科・科学の達人にして『理科の探検(RikaTan)』編集長でもある左巻健男氏が、誰でも知っている「アポロ月着陸」の真相について検証します。

※本記事は、左巻健男:著『陰謀論とニセ科学』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

講義で聞いたら「アポロは月に行っていない」が多数

私は2015年9月、東京大学で「理科教育法」の集中講義をおこなっていました。

そのときの受講生は少なく、中高理科の教職免許を取得希望している理系学部・大学院の7人でした。その受講生たちに「アポロ宇宙船は月面に着陸したか?」と質問してみたのです。

おそらく1人か2人は「月面着陸はなかった」と答え、大部分は「アポロ宇宙船は月面に着陸したと思う」と回答すると私は推測していました。ところが実際は、「月面着陸はなかった」が4人に対し、「月面着陸はあった」が3人でした。

アポロ計画により、人類は6回にわたって月面に降り立ちました。こうして合計で400キログラム近い石を持ち帰りました。宇宙飛行士たちが月面上を歩行した姿も、フィルムに収められていました。

ところが、アポロ計画が実行されたのは1960〜1970年代であり、彼らにとって「昔むかし」の時代です。21世紀になって20年ほど経ったけれど、彼らはその間に月へ出かけた人を見たことがない。今の学生たちには、アポロ月面着陸の話は「古代史」の出来事なのかもしれません。

「月面着陸はなかった」と思った学生たちに理由を聞いてみると、テレビの影響が強いようです。

彼らは、アポロ宇宙船の月面着陸の映像は、ハリウッドのスタジオで撮影されたもので、ないことをあるように偽ってつくりあげた陰謀論なのだという「アポロ月着陸陰謀論」のテレビ映像を見ていて、ある程度納得していたのです。

「米国とソ連との冷戦のさなかに、米国がソ連を出し抜くためにでっち上げた当時のニクソン大統領の陰謀だ」「スクリーンに登場する宇宙飛行士たちはただの役者なのだ」というストーリーです。

世界的に影響を与えた「アポロ月着陸陰謀論」を扱ったテレビ番組として、とくに有名なのは2001年に米国のケーブルテレビ局のFOXテレビで放送された「疑惑の理論――人類は月に行ったのか?」と題された番組です。この番組が世界中に配信されることで、世界全体を巻き込む疑惑へと発展し、多くのアポロ月着陸陰謀論者を生み出しました。

▲陰謀論が形成されるにあたりメディアの影響は大きい イメージ:horyn.vd / PIXTA

日本でも2002年、この映像がバラエティ番組で放送され、さらに関連書籍などが出ることで一気に広がりました。しかもこの関連の番組は、その後もときどき放映されてきたのです。

月面上で旗が揺れるのはおかしい?

「月面着陸はなかった」と思った学生たちの胸中を捉えたのは、とくに真空の月面上で「アメリカ国旗が掲げられ揺れている」という「事実」だったようです。風が吹くはずもない月面上で、国旗が揺れているのはおかしいと思ったのです。

▲月面上で旗が揺れるのは科学的におかしい!? イメージ:Merlin74 / PIXTA

ここには「真空だと旗はなびかない」という判断があったことでしょう。

しかし実際は、真空でも旗はなびきます。

宇宙飛行士は、月面上に旗竿を立てるときに旗を揺らしました。旗を揺らせば真空中でもはためくのです。その揺れは慣性のため、すぐには止まりません。揺れへの抵抗力になる空気がないので、空気中よりも長く揺れが続きます。しかも、旗がよりはためいて見えるように、国旗にはワイヤが仕組まれていました。

NHK−BSプレミアムの「幻解! 超常ファイル」では、このことを検証するために、小さな星条旗の模型を真空にした容器の中に入れ、外から旗をリモコンで動かしました。すると、旗が揺れはじめ、長い間はためき続けました。空気が入った状態より真空中のほうが長く揺れ続けたのです。

旗が掲げられている様子を映像で見ると、宇宙飛行士が旗の脇を通り過ぎても旗は揺れません。空気があれば、そのような人間の動作で空気が動き、旗がはためくはずです。

これは、真空の“月面上”で撮影されたことを意味するのです。