激怒された5秒後、特盛りカレーに舌鼓
だがしかし、そんなやりとりがあった会議当日も、春日は遅刻してきた。
当時、そのショーパブではバイトは18時に出勤して、まかないのカレーを食べて、18時30分のオープンに備えて準備を始めることになっていた。だが、自分がクビになりかけていることを知らない春日は、18時10分に出社してきたのだ。
自分がなんとかするんで辞めさせないでください、とお願いした俺はメンツを潰されたも同然。腹が立った俺は、遅れてきた春日のケツを蹴り飛ばして、思い切り怒鳴りつけた。
春日はビビって「すいません! すいません!」と謝っていた。俺はつとめて冷静に、今の春日が現在おかれてる状況を説明した。「ちゃんとやらないと、すぐにクビになるんだぞ!」とかなり強い口調で伝えた。
春日は下を向いていた。そして怒っている俺に少し怯えていたようだが、心から反省している様子だった。
「さっさと仕事に入れ」
「はい」
俺に遅刻をこっぴどく叱られて反省していたので、そのままフロアの清掃作業を始めるのだと思っていたが、春日はまかないのカレーが置いてあるコーナーに向かって真っすぐ歩いて行った。
てんこ盛りにカレーをよそい、いつも通りうまそうに食べている春日を、さらに叱りつけたのは言うまでもない。
あれから何十年たった今ならわかる。春日の中では、遅刻や今までの失態は俺に怒られ、謝った瞬間に終わったことなのだ。まかないも食べずに作業に入り、少しでも今までのミスを取り返そうなどという気はサラサラない。怒られて説教され謝ったことで、もうそれは終わったこと。さぁいつも通りカレーを食べようということなのだ。
春日とはその日の仕事終わりも飲みに行った。
俺は何も言わずに我慢するとイライラしてしまうが、一度怒ればスッキリしてしまう性格。切り替えが早いほうだ。そういうところが春日と似ていたのかもしれない。
さらに言ってしまえば、ホントに春日にメチャクチャ怒っておいたかというと、どちらかといえば俺がブチギレてる姿、そして怒られてる春日の様子を支配人たちたちに見せるパフォーマンスも入っていた。
「お前、今日の会議で本当にヤバかったぞ」と酒の席で盛り上がったことは言うまでもない。
(構成:キンマサタカ)