初日参回目でのネタ披露をはじめ、両日『さんまの駐在さん』にも登場して存在感を見せたNON STYLE。彼らの取材は、今回『伝説の一日』で最も注目されていた千穐楽参回目の公演の直後――つまりダウンタウンが31年ぶりの漫才を披露した直後に行なわれた。漫才に一途な二人は「伝説」を目撃して何を思ったのか? このイベントに参加していた誰もが興奮冷めやらぬ状態とあって、インタビューはその話題から始まった。

ダウンタウンの漫才は「作りもんでは一生越えれない壁」

――ダウンタウンの漫才、ご覧になりましたか?

井上裕介(以下、井上) 見ました! もうすごかったですね、率直に。松本さん、浜田さんどちらともすごい。基本ほぼ全アドリブだと思うんですけど、それがやっぱりネタっぽく見えるのもすごいし、それがちゃんとおもろいのもすごいし、例えばあれを文字にしてNON STYLEがやったとしてもおもろないだろうし……やっぱり浜田さん、松本さんじゃないとあんな面白い空気、空間にはならないなっていう部分で言うと、本当にネタとしても面白かったし、人としても面白かったし、「偉大やな」っていう感想になりましたね。

▲井上裕介(NON STYLE)

石田明(以下、石田) (オンラインの)映像でも伝わったと思いますけど、舞台上に浮遊している空気がとんでもなかったですね。ずっと面白い空気が浮遊してて、お客さんが常に“沸騰待ち”というか、もう、何言っても沸騰するような状態になっている空間を作れているのが面白かったですね。やっぱり、生の反応ってこんな面白いんやっていう、作りもんでは一生越えれない壁というか、こんな最終形を見せられたら、今の若手はどうやってネタ作りしていけばいいんやっていう……ちょっと迷子になってしまう可能性もある。

▲石田明(NON STYLE)

――今は、かっちりネタを固めて、それを実演するうえでの表現力を研ぎ澄ましていく漫才のスタイルもありますよね。それが急にフリージャズというかプログレみたいなものを、とんでもない演奏力で見せつけられたみたいな感じですよね。

井上 普段の漫才は時間が決まってるんでね。それはもう種目というか、競技も違うでしょうけど、ジャズの、浜田さんと松本さんのセッションのクオリティが高過ぎるっていうことね。あれのまねっこはできるけど、あのクオリティは無理ですよね。

――NON STYLEもそうですけど、吉本に入る人はダウンタウンさんに影響を受けて来る人が多いですよね。今日の漫才はそれに対する一つの解だと思いますが、ダウンタウンって何がすごいんだっていうのわかりました?

井上 いや、結局、何がわかったかっていうと、辿り着かれへんっていうことがわかったというだけで。側で見てた芸人はなんかもう、みんな疲れ切ってましたよ(笑)。

▲ダウンタウンの漫才を見た直後「今はただ放心状態です(笑)」と石田は語った。

――さて。NON STYLEさんのお話を聞かせてください。吉本の110周年という、記念すべき周年イベントに出られる感慨というのはありましたか。

井上 100周年のときは僕らほんま一番下ぐらい。コメディーで入ってたんですけど、今回、真ん中よりちょっと上ぐらいの芸歴になってって。だから、「たかが10年やけど、されど10年やな」という気はしましたね。自分らのコンビも含め、自分の生きてきた人生含め、周年っていうのはなんとも思わないタイプなんで、気負いみたいなんはなかったですけど。

――記念日を忘れるタイプですか?

井上 そのタイプです(笑)。ただ、100周年も110周年のときもそうやけど、呼ばれるうれしさはもちろんあります。ただその結果、上の先輩から下の若手まで全部を知るじゃないですか、今の吉本の縮図というものを。やっぱり上見上げると、天井に届かないことに気付かされる。知りたくなかった現実を、あらためて突き付けられるイベントやと思うので、なんか喜びもあるし悲しさもあるしっていう感覚ですね、僕は。

石田 僕は、井上さんほど向上心は高くないので(笑)。ただのお笑いファンですから、単純にただでお笑いが見れる、こういう会があるのは僕は素敵やなと思います。なんか10年に1回と言わず毎年やってくれたらいいのになって思いますね。

――さっき井上さんがおっしゃってましたけど、上もすごいし下の世代の猛追もすごいじゃないですか。ノンスタぐらいの位置にいる人が一番大変なんじゃないんですかね。

石田 もともと僕はそんな実力者でもないので、やること自体は変わらへんから。どんだけ背伸びしてもやれることなんて限られてるんで。なんか背伸びしてやったら、たぶん自分たちは面白くなくなると思うので。

――オール巨人師匠が、ご自身の『漫才論』という本のなかでNON STYLEのことを「もう少ししたらトリを取れる」と書いていらっしゃいました。吉本の未来を担う存在として認めているんだと思いますが、そういう意識はありますか。次は自分たちが引っ張っていくんだ、みたいな。

井上 ありがたいです。でも、全然ないというか、まだその位置にもいないですね、僕の感覚では。漫才のテクニックはこの先、絶対若い子に抜かれるんで。そらもう若い子のほうが絶対に教材も多いしね。ただ、テクニックだけではなくて、やっぱり素材がおもろくないと。それが師匠方のすごいところで、たとえテクニックが衰えたとしても、素材がおもろいから成立してるんです。巨人師匠にそう言っていただいたのはめちゃくちゃ光栄ですし、だからそのぶん、素材も鍛えていかないとなと思いますね。

――『漫才論』で、石田さんのことは「石田くんの才能に期待です」というふうに書かれていましたよ。

石田 巨人師匠が買ってくださっているのって、僕が漫才好きだからだと思うんですね。漫才好きな人のなかでも、僕は特に好きなほうやと思うので。やっぱり漫才どれだけ好きか、どれだけ楽しむかみたいなことが舞台上でも絶対に出るので、それが持続すると、未来もあるのかなとは思います。でも、それが持続しなくなった時点で、僕たちがこの先を背負っていくみたいなことはなくなると思いますね。だから、その気持ちをどこまで持っていられるかっていうのが分かれ目かなと思います。