西川のりお・上方よしお。80年代の漫才ブームを牽引したコンビの一つとして知られ、今なお精力的に活動している二人は、初日壱回目の公演に登場。ネタのほか、重鎮にふさわしい口上も務め上げ、同日四回目公演の『さんまの駐在さん』にも出演。台本完全無視の暴走ぶりを見せ、70代に差し掛かっても尚パワフルな姿を印象付けた。
そんな彼らへのインタビューは、のりお・よしおの美学が浮かび上がる芸談。「今を生きる」という姿勢にも感銘を受けたが、二人がお互いの話を真剣に聞き合う様子には深い信頼関係が垣間見え、長年連れ添った漫才コンビの理想の形を見るような思いがした。
長くやって、やればやるほど伝説が増える
――お二人とも吉本には、ほぼ半世紀所属なさっていますが、この年月をどう振り返りますか?
上方よしお(以下よしお) 僕自身、過去のことはあんまり気にしないというか、できないというか。現在と未来だけを見ておきたいという気持ちがあってね。振り返ってしまうと終わらなアカンみたいな気持ちになる(笑)。
――では、後悔もないですか。
よしお いえ、それは日々ありますよ(笑)。反省いうか、「これ、こう言えたんちゃうかな」とか、対人関係の反省は日々あります。夜寝るとき、頭の中にいろんなことがよぎりますけど、寝て、朝になったら忘れてます(笑)。実際は性格上、結構悔やんでしまうんだけど、それを出すのがイヤやから、現在と未来を見ときたいと言う気持ちになってる。
西川のりお(以下のりお) 僕はね、『オレたちひょうきん族』での「お化けのQ太郎」や「沢田研二」、おさむちゃん(ザ・ぼんちのぼんちおさむ)とやった「あずさ2号」、あと、『じゃりんこチエ』では声優なんかもやらしてもらいましたけど、そういうのを見てた人たちから、たまに「師匠はレジェンドだから」って言われるんです。レジェンドって“伝説”じゃないですか。だから一瞬(自分が過去の人と思われたようで)イヤな気分になったんですけど、考えようによっては僕みたいな男でも、小さい歴史に一行、名前を刻めたのかなって気もします。
なにより今でも現役でできてますしね。「人生現役」という言葉が僕の頭にあってね。僕がやめていくときはね、音楽じゃないですけど、スーッとボリュームが落ちるようにフェイドアウトしていくつもりです。今年やめますとかは言わない。「最近あいつ見ないな」と言われたときは、僕がやめたとき、もしくは会社をクビになったときです。
よしお わははははは。「もうええで」ってな(笑)。
のりお 50歳になったらやめる、60歳になったらやめるって皆さん言いますけどね、僕はやめないです。一般の仕事をしてる方にも言えることですけど、仕事って、就職するのは難しいけどやめるのはラクなんですよ。新入社員の方もそう思ってるでしょう。同じように、漫才で舞台出ようってなったときも、それは簡単なことではなかったはずなんですよ。それなのになんでやめるって言うのか。だから、そういうことは僕は言わないですね。僕がやめるのは息を引き取るとき……最期の「ホーホケキョ」もフワーッと……呼吸できずに僕自身が亡くなっていくときです。つまり、「息が止まるまで現役」ということですね。
――よしお師匠も深くうなづいていらっしゃいますけど。
よしお うん、ええ言葉やなと思ってね。「我々も、もうこんな年やからあと何年でやめますわ」って言うのは簡単やけども、実際は芸人続けてるほうが楽しいし、自分が生きてるという生きがいみたいなのもあるからね。
のりお 長くやって、やればやるほど伝説が増えるんですね。最近自分でも感じるのは、若いときは気負いがあってね、今日みたいな日は「いいとこ見したろか」と思うんだけれども、そういうときって、決まってあんまりいい漫才できないんですよ。おかげで平常心というんか、いつも通りというか。いつも通りほど難しいことないんですけど、僕は結構いつも通りにできるんですよ。だから舞台の袖で喋ってるときも、舞台出てるときも変わらないです。プロの方でも意外と改まる方はいるんですけど、僕は自然に言葉を喋れてる。無理に絞り出してる感じはないです。
よしお そうですね。やっぱり作り言葉というのはバレるからね。そういう意味では相方はいつも普通となんら変わりませんね。
――今の吉本は、若い世代の芸人がテレビをはじめ、あらゆるメディアで大活躍していますが、それはどのようにご覧になってますか?
よしお 若い人で活躍してる人はいっぱいいますね。僕らからしたら、せっかく入った世界やから長いことやったほうが楽しいやろなと思うけども。
のりお 正直な話、上っ面では「おもろいな、頑張ってるな」と言いながら、「せやけど俺のほうがおもろいわな」という気持ちがないと芸人は続けれません。心底その若手を認めたら、自分はやめんとダメです。今、若い奴に君らはウケてるかもしれんけど、実は俺のほうがおもろいねんと思わないと。本心で「お前らおもろいな。負けたわ」言うときは、それはやめるときです。
よしお うん、そんときはやめたほうがええ。
のりお 一応、建前では褒めますよ。本心では褒めてないです。尖った気持ちがなくなったら芸人は終わりです。僕はアウトローな奴が好きなんですよ。笑いってね、悪の部分と正義の部分のちょうど狭間なんです。笑いって裏切りなんですよ。僕は毒気が大好きですから。毒気のある奴やったら、それこそ僕の名前継いでくれたらうれしいです。こいつ、むちゃくちゃしよるな、というね。僕はむちゃくちゃするけど警察にはお世話になってないです(笑)。
――ギリギリのところを攻める(笑)。
のりお そうですそうです。
よしお それが大事なポイントですから。