ダメバイト春日が前説デビュー!?

給料日前や週末など、たまに満席近くお客さんが入るものの、ショーパブ・キサラの平日や日曜は閑散としていた。だからというわけではないが、体力が有り余っていた俺たちは、仕事が終わったあとの飲み会をいつも楽しみにしていた。

その頃の俺は、キサラの従業員のなかでもリーダー的な存在で、営業が終わると春日をはじめとするメンバーを連れて、歌舞伎町に飲みに出かけることが多かった。

俺は社員なので固定給だったし、それに加えて休みの日の営業のギャラやチップ、木戸さんからのお車代など、お金がそこそこあったからだ。

いつものように明け方まで飲んで、二日酔いの頭を抱えて出勤すると、その日はちょうど月に一度の定例会議の日だった。最初に上がった議題は、ダメバイトとしておなじみの春日が組んでいる、「ナイスミドル」というコンビについてだった。彼らを前説として舞台に立たせてもらえないかと、事務所からお願いされたというのだ。

▲営業後によく飲んだ

社長や支配人は、仕事もできないし、急なシフト変更も多く、勤務態度が不真面目な春日を舞台に出すのはどうなのか、と渋っている。

しかし、彼らが所属する事務所のケイダッシュステージには普段からお世話になっている。ショーパブでも人気のはなわさんや、故・前田健さんも所属していたから「ナイスミドルはダメです」とも言いにくい。

結局、事務所との付き合いを考慮して「月2~3回、さらにノーギャラなら」という条件で出演してもらうことになった。彼らは自分たちのネタを、お笑いライブではなく、ショーパブというアウェーな場所で磨き上げて、腕を上げたかったんだと思う。ある程度ウケればギャラも出るようになるし、出演すれば食べられる賄いもありがたかっただろう。

しかし、当時のショーパブの前説という仕事が名誉なものだったかというと、決してそうではなかった。

キサラ自体が当時は無名なショーパブだったし、その前説ということは、メチャクチャ下っ端の芸人がやるような仕事だ。客だって、のちの大スターがやっているなんて夢にも思わないわけで、まぁほとんどの客がステージに興味を示さなかった。

ショーパブに出る芸人は正統派ではないという風潮もあったし、「芸が水っぽくなる」などと馬鹿にもされてもいた。そこにあえて出ると決めたということは、とにかく場数を踏みたかったんだと思う。