モノマネ芸人の先輩にかわいがられ
新宿にあるショーパブの店員として働きながら、店の外ではステージに立ってエルヴィス・プレスリーのモノマネをしていた俺は、他の店員と比べたらやはり目立っていたのか、キサラに出演しているモノマネ芸人さんたちと、どんどん仲良くなっていった。
出番前に準備してる芸人さんから「ごめん、オレンジジュースをお願いしてもいいかな〜?」と気軽に声をかけられたし、頼まれた用事が終わったあとも、なんてことない世間話をするようになっていた。
その日、初めて新ネタを披露した芸人さんに「今日の新ネタ、めっちゃ面白かったです!」と声をかけると向こうも喜んでくれて、「終わったあとに、軽くメシでも行こうか?」と声をかけていただき、メシだけで済むわけもなく、酒をご馳走になったことも。
そのなかでも、石原裕次郎さんのそっくりさんとして知られるゆうたろうさんには、本当にかわいがってもらった。
日ごろから目をかけてくれて、食事や酒に連れて行ってくれたり、ゆうたろうさんのオンステージのときに、横に立たせてもらったこともあった。
やがて 俺がエルヴィスのネタをやっているという噂がモノマネ芸人のあいだでも広まっていき、ある日、田村正和さんの古畑任三郎や、美空ひばりさんのモノマネをするツートン青木さんから声をかけられる。
「知り合いがやってる小田原のフィリピンパブで、エルヴィスのモノマネできる人いないって聞かれたんだけど行ってみる?」
その日のショーパブの公演が終わり、楽屋出口付近を掃除していた俺に、ツートンさんは願ってもない話をもってきてくれた。
「行きたいです! でも俺なんてまだまだ下手くそだし、やり始めたばかりでレパートリーもそんなないのに、いいんですか?」
ツートンさんは「俺も知り合いにも『そんなに本格的じゃないよ』と伝えてあるから大丈夫だよ」と笑ってくれた。
詳しく聞くと、俺に求められていたのは、30分×2ステージ。レパートリーがたくさんあるわけでもない自分が、1人で引き受けて大丈夫なのかと不安がよぎったが、その日から、先輩たちのMCやネタを仕事中に研究しながら、自分なりに構成を考え始めた。