お笑いにストイックな男・若林正恭
ナイスミドルの前説が決まった日、バイトに現れた春日に声をかけた。
「来月から前説やるらしいな」
「はい! スタッフも続けますが、前説もやらせてもらえることになりました」
春日はうれしそうだった。その日もお祝いと称して春日を連れて飲みに行くと携帯が鳴る。そう、春日というやつの携帯は、飲んでいるといつも鳴り響くのだ。
「すいません、ちょっと出てきます」と言って春日は席を立つ。 電話で中座というと、普通だったら2~3分、長くても10分くらいで帰ってくるだろうと思うのだが、春日は一度席を立つと30~40分は戻ってこない。
「すいません」と言いながら電話から戻ってくる。誰かに怒られたのか、あるいはツラいことがあったのか、浮かない表情をしている。だが、バイト先で怒られても、その場でチャラにしてしまう春日だから、気がつけば楽しそうに笑って飲んでいる。
ある日、電話から戻ってきた春日に、誰とそんなに長話しをしていたのかと尋ねた。怒られると思ったのか、「すいません。相方です」としおらしく答える。電話の相手は春日の相方、俺がまだ顔を見たことがない男、若林正恭だった。
今だから正直に言うが、相方が先輩と飲んでる最中なのに、平気で30~40分も電話を続ける若林を、最初は非常識なやつだと思っていた。男同士が夜中に30~40分も何を喋るんだよ、とも思った。
のちに聞いた話だが、当時のナイスミドルはライブでもスベりまくっていて、若林は芸人を辞めようかと悩んでいた時期でもあったらしい。だから、春日が何も考えずのほほんと酒を飲んでいることに憤りを感じていたのだろう。電話のほとんどはネタの相談だったようだ。今思えば、若林は当時からストイックだった。