ショーパブで戦う二人は眩しかった
ナイスミドルの初前説の日。ライブを一度見に行ったことがあるので、若林を見るのは初めてではなかったが、会話をするのは初めてだった。俺は楽屋で若林に声をかけた。
「いつも春日から話は聞いてるよ」
「僕も大河さんのこと春日から聞いてます! 昔はメチャクチャ悪かったらしいですね~」
それまでの悪いイメージはどこへやら、俺は若林のことを素直で、とても気持ちのいいやつだと感じた。初対面の会話はこれくらいしか覚えていないが、若林は俺の芸人ぽくないところが面白かった、とのちに教えてくれた。
その当時、芸人というのは、クラスの人気者を教室の端からジトーっと見ていたようなやつが目指していることが多かったようだ。自分で言うのもなんだが、俺は昔からクラスの人気者の部類だったから、逆に新鮮だったようだ。
エルヴィス・プレスリーのモノマネをやっているのも、若林は「なんで、この時代に?」と思っていたようだし、偉そうな立ち振る舞い、グイグイと距離を縮めるコミュニケーションの取り方、芸人ぽくないキャラクターはツッコミどころが満載で、当時、人見知りだった若林にも付き合いやすかったのだと思う。
さて、肝心のナイスミドルの前説だが、お世辞にも面白くなかったし、まったくと言っていいほどウケてなかった。緊張はしていなかったようだが、まあネタが面白くないうえに、相手がショーを見にきたお客さんだから分が悪い。
「モノマネを見に来たのに、なんで知らない若手の漫才見せられなきゃいけないんだ」と思ってたお客さんがほとんどだったことだろう。
それでも、春日と若林の二人は、慣れないショーパブの舞台で必死に戦っていた。漫才がダメならショートコントを試すなど、試行錯誤を続けていた。支配人や店長は事務所との兼ね合いもあり無下にもできず、いつも苦虫を噛み潰したような顔をしてステージを見つめていた。
それでも俺は、舞台でもがく二人を心の中で応援していた。
(構成:キンマサタカ)