保育士の専門学校を卒業後、公立保育園への就職ではなく、唯一無二の「絵本の聞かせ屋」としての道を選んで10数年。いまでは全国各地での読み聞かせに留まらず、自分の絵本の出版や保育者研修会の講師など、多岐にわたって活動している聞かせ屋。けいたろうさん。

聞かせ屋を始めた当初は、絵本の世界とのコネクションが全くなく、仕事がほとんど入ってこなかったという。ゼロから絵本業界に飛び込んで、さまざまな仕事を手掛けるようになるまでのエピソードを聞いてみた。

▲Fun Work ~好きなことを仕事に~ <聞かせ屋。けいたろう(後編)>

何もないところから絵本の世界に飛び込んだ!

人から何か言われると、とても気にしてしまう性格だと話すけいたろうさん。聞かせ屋としての道を選ぶことを決めた頃、メンタルの面で苦労したこともあったという。

「“君は何をやっているんだ”と言われたときが一番キツかったですね。仲間たちに理解してもらえなかった。たしかに周りからしたら、保育士の学校通って卒業もしたのに、なんで就職しないの? いまさら何やってんの?って思うだろうし、言われたときに反発することもできなかった。聞かせ屋として結果が出ていなかったですし」

みんなが就職する時期が近くなり、卒業間際のクラスメイトの視線も厳しかったという。しかし、理解してくれた先生のお陰で、なんとか持ち直すことができたという。

「あなたなら大丈夫だからって。そういう自分を認めてくれる人や、自分を見ててくれる人のひと言は大きかった。理解してもらえないことはすごくツラかったけど、ここまで来ちゃったからやるしかないと」

しかし、ここから大きく仕事が増えることはなかった。保育の仕事と絵本の仕事は全く違うため、絵本の仕事に携わる知人がいなかったのだ。非常勤で勤務していた保育園の先生に相談をしたら、“私が勤務していた保育園の親御さんに、絵本の読み聞かせをしている人がいるから”と紹介を受け、集まりに行ってみることにした。

「絵本好きの方ばかりが集っているなかで、僕、読み聞かせ屋をやってるんですって言うと、“あんた面白いわね、絵本好きの集まりがあるから来なさいよ”と誘われた飲み会の帰り道、そのまま駅前で読み聞かせをして、こんな感じでやってます!って実演しました。絵本の業界とのつながりなんて全然なかったのに、これをきっかけに絵本の仕事に関わる人たちと知り合うことができて、こういう一歩が大事なんだなって思いましたね」

それでも初めのうちは、思うように仕事を得られなかったけいたろうさん。根気よく活動を続けていくなかで、新聞が「路上で大人に絵本の読み聞かせ」というキーワードで取り上げてくれるようになったという。そこから、少しづつ聞かせ屋の仕事の風向きが変わっていく。

「子育て系のテレビ番組や情報番組でも取り上げてもらって、バッと露出したんですね。そしたら、“子ども向けにもできますか”とか講演会の依頼が入ったりとか、“絵本の紹介文を書いてもらえませんか”っていう話もいただけるようになって。やり続けていてよかったって思いました」

テレビの取材を受けたときも、ベテランのカメラマンに“読み聞かせの様子に圧倒されて、撮りきれなかった”と絶賛されたという。

「そのカメラマンさんに“このまま続けたら、いけると思う”とも言っていただいて。このままでいいんだなと、いろんなところで確認しながら活動を続けました。僕も不安はあったので」

初めは大人に読み聞かせをするため、夜の路上で活動していたけいたろうさん。子ども向けにも絵本を読むようになって、違いはあるのか聞いてみた。

「大人は読んでもらうことに照れがあるので、場の空気をほぐすことが大変だったりすることはあります。でも、楽しさを感じてもらえると、みんな前のめりになって見てくれます。そうそう、本当は大人に読みたかったんですよ、大人に楽しさを知ってもらいたかったんですよって、これはまさにやりたいことやってるなと思いますね」

大人は読み聞かせされていても、どうしても字を追ってしまうが、子どもは純粋に“絵を楽しむ”ことができるのだという。しかし、子どもの純粋さから別の問題も浮かび上がった。

「最初は声色をめっちゃ変えて、芝居がかった感じでやってたんですけど、子どもたちが絵本じゃなくて僕を見るようになってしまったんです。芝居してるお兄ちゃんが面白いって。素晴らしい絵本に目を向けてほしいのに、それは違うなって思いました。

自分より絵本が主役だと思い、絵本を大切にして読めば読むほど、読み方はシンプルになっていきました。もちろん、声色や抑揚をつけないというわけではなくて、自然に読むんです。演じるわけではなく、自分らしく、楽しんで読めるようになりました。

保育者研修会で保育園の先生にこのような失敗談を話すと、“なるほど!”ってなるんですね。聞かせ屋で得たこういうエッセンスが、保育現場で生きるようになって。自分の経験を保育現場に返せてるのは、これも自分の夢だったんだなって思いますね」

聞かせ屋。けいたろうの活動をしているおかげで、保育現場にも恩返しができて、子どもたちとも触れ合うことができる。まさに、けいたろうさんにとっては天職だろう。

「聞かせ屋。けいたろうは、自分のやりたかったことがひとつになってる。路上でバンドをやっていたこと、目立ちたがり屋なこと、子どもが好きなこと。自分が今までやってきたこと、自分の好きなことが全部無駄にならないで“聞かせ屋。けいたろう”になっていると思います」

▲やりたかったことがひとつになって、今の自分につながっていたと語る