ステージにぶつけたアツイ気持ち
オードリーの二人やビューティーさんは、暴力とはほど遠い穏やかな性格なので、見事に固まってしまっていた。
俺もさすがにやりすぎたと思ったが、振り上げた拳は簡単にはおろせない。「まあまあ」と言いながら、作り笑いで仲裁に入ってくれたダブルネームの二人が、俺とミラクルをなだめて落ち着かせてくれた。ミラクルはふてくされて、こちらを見ようともしない。
俺は一度ブチ切れるとスッキリしてしまう性格なので、その後は普通に接していたし、ミラクルも普通にしてくれたと思う。どっちが正しい、間違ってるとか、そんなことではなかった。ただ、みんな売れたくて必死に頑張っていた。そんな熱い気持ちで集ったメンバーだから、もちろんすぐに仲直りした。
そんな諍いから10数年後、俺の結婚式でミラクルが宇多田ヒカルを歌ってくれたのは、良い思い出となって俺の記憶に残っている。
ムードメーカー的な存在のダブルネームの二人は、年齢も近く弟分のように可愛がっていた後輩だが、ある日の若手デーで、ジョーが致命的なミスを犯した。1部のショーで俺がエルヴィスプレスリーで出たので、2部もエルヴィスプレスリーだと思いこんでいたのだ。
「続きましてエルヴィスプレスリー オンステージ!」と言って俺を呼び込んだものの、俺は氣志團の格好をしている。
当時大流行していた氣志團は、ヅラとサングラス、長ランを着てイントロを流せば、お客さんが間違いなく沸く鉄板ネタだった。氣志團を掴みにしようと思っていたので、出鼻をくじかれた格好になった。
呼び込み前に、ホワイトボードの構成を確認したら誰でもわかることなのだが、ジョーはそれをしなかった。俺は自分がスベったことより、ジョーのいい加減な姿勢が気に食わなかった。なんとかネタを終えて楽屋に戻ると、ジョーの胸ぐらを掴んで業務用の製氷機に叩きつけた。ジョーは涙目だった。
もちろん、その出来事も今では笑い話になっている。それくらい俺はステージに命を賭けていたんだなと、あの頃を懐かしく思い出す。
(構成:キンマサタカ)