今はどんなに若くて元気でも、いずれは必ず老いるもの。「少しずつ身のまわりを整理して、迷惑をかけないように人生を終えよう……」なんて考えている人もいるのではないでしょうか。しかし、長年にわたり高齢者の医療にかかわってきた和田秀樹氏は「もっと自由奔放に老いてもいい」と言います。その理由はとてつもなく納得できるものでした。

※本記事は、和田秀樹:著『老人入門 -いまさら聞けない必須知識20講-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

老いてからの人生はもっと自由でもいいはず

あなたが60代でも70代でも、老いはこれからです。そのとき、自分がどういう年寄りになりたいのか、ということをぜひ考えてください。

「歳は取りたくない」とか「老いなんて、そのときになってみなければわからない」という気持ちはあると思いますが、それは逃げですね。

どう言い繕ってみても、老いはやってきます。今がどんなに元気で若々しい人でも、いずれは老います。どうせ老いるのなら「こういう年寄りになってやろう」という気概を持ってみましょう。

老いは誰にでも訪れますが、それを人間の抗えない流れと考えてしまうと、どうしても受け身になってしまいます。

「欲は捨てて、穏やかな日々を送ろう」「孫の面倒を見て、若い人に愛される年寄りになろう」「少しずつ身のまわりを整理して、迷惑をかけないように人生を終えよう」……たとえば、そういった考え方です。

いかにも模範的で成熟した人生観のように思えますが、少し達観し過ぎていないでしょうか。あるいは取り繕ってはいないでしょうか。

もちろん、そういった考え方が悪いとは言いません。

でも、老いは自分自身の問題です。一人ひとりが置かれた状況も違うし、個人差もあります。それまでの人生が人それぞれだったように、老いてからの人生も一人ひとり違っていいはずです。

しかも老いれば自由になります。少しぐらい体の動きが不自由になっても、それまで背負ってきたたくさんのものから自由になるのですから、「こういう年寄りになろう」「こんな毎日を送ってみたい」と思えば、もっと奔放でもっとわがままなイメージをいくらでも描けるはずです。

▲老いてからの人生はもっと自由でもいいはず イメージ:Ushico / PIXTA

「オレは家になんか居たくない、愛車に身のまわりのもの一切積み込んで、旅から旅の人生を送りたい」

「孫の面倒なんてつまらない、自分の時間は自分の好きなこと、やりたいことだけやっていたい」

「まだまだオシャレだってしたいし、髪の毛も思い切り明るい色に染めてみたい。今まで我慢していたこと全部やってみたい」

老いてからの人生に、こういった夢を描くのは少しも不自然ではないし、むしろもっと奔放な計画を立てることだって可能になってきます。老いたらもう、それまで囚われてきた世間体だの体面だの、社会的な常識だのから自由になっていいはずだからです。

「結局はおじいちゃんは、わがまま一杯に生きたんだな」「死ぬまでやりたいことができたんだから本人も満足だろう」

家族があきれるぐらいの晩年を送れるなら、年寄りとしては本望なはずです。

「どんな年寄りになるか」をデザインしておこう

私はかつて「思秋期」という言葉を使って、いわゆる更年期の乗り切り方についての本を書いたことがあります。

思春期が「どんな大人になるか」を思い悩んだり考えたりする時期だとすれば、自分がどういう老人になって、どんな人生を送っていくかを考えるのが思秋期ということになります。

難しいのはその時期です。完全に老いてしまって脳の老化が進めば、意欲もときめきもなくなってきますから、静かな老いとか穏やかな暮らしといったイメージしか浮かんでこなくなります。かといって若い頃には老いはまだ実感できません。

そこで、長寿の時代になった現代でしたら、60代から70代にかけての世代でも、思秋期に当てはまるかもしれないと考えるようになりました。この年代はかつてでしたら、十分に老いの最中ということになりますが、今は違います。

なんらかの形で仕事を続けている人はいくらでもいますし、意欲も旺盛で脳の老化もそれほど進んでいない人が多いからです。

つまり、体が元気で頭もしっかりしていて、それでいて自分の老いを実感できるという、最適の世代が60~70代ということになります。

そういう世代の人でしたら、「こういう年寄りになりたい」という具体的なイメージがきっと描けると思います。

現役時代に仕事に追われてやり残したこと、世間体とか常識に縛られて手を出せなかったこと、あるいは失敗したときのダメージを考えて自重してきたこと、そういったもののなかには「年寄りになってしまえばできるかな」と思える物事が、きっといくつかあると思います。

老いてしまえば世間体からは自由です。失敗したとしてもそれほどダメージはありません。時間ならいくらでもあります。今までの人生で制約となっていたものが、すべて消えているのですから、それこそどんなに奔放なグランドデザインでも描けるはずです。

▲「どんな年寄りになるか」をデザインしておこう イメージ:A_Team / PIXTA

自分が好きな世界、やりだせば夢中になってしまうこと、憧れるだけで今まで諦めてきた世界のなかに、きっと老いてからの人生で挑戦できるものがあるはずです。それをそろそろ真っすぐに見つめてください。

見つめることで60~70代の人生に張り合いや意欲が生まれてきます。感情も大いに若返るでしょう。自分が高齢になることへの不安より、希望のほうが膨らんでくるはずです。