老年医学の専門家である和田秀樹氏によると「老いに対しての知識がないことで、過度に不安になったり自分を追い詰めてしまう人が多い。それによって老いが加速したり、不幸な老い方をする人が出てきている――」とのこと。人間だれしも老いを迎えるが、“損する老い方”だけはしたくないもの。そこで、「老い」について知っておきたい最低限の基礎知識を語ってもらいました。
※本記事は、和田秀樹:著『老人入門 -いまさら聞けない必須知識20講-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
「老い」は個人差が大きい
老いに対しての知識がないことで、不安になったり自分を追い詰めてしまう人が出てきます。それによって老いが加速したり、不幸な老い方をする人が出てくるのです。
そこで長年、高齢の方と向き合ってきた精神科医として、これだけは知っておいたほうがいいですよ、という基本的な知識を説明してみます。
老いが誰にとっても初めて経験する世界だからこそ、知識は備えておいたほうがいいです。そのほうが憂いなく老いを迎えることができるからです。何より知識があれば余計な不安は持たなくて済みます。
不安は高齢者の心に悪い影響しか与えません。
まず、最初に基本的なことを2つだけ挙げましょう。
- 「老い」は個人差が大きい
- 「老い」はゆっくりと進む
この2つです。
1.の個人差が大きいというのは、人それぞれだということです。
90歳過ぎても足取りがしっかりした高齢者もいれば、70代で認知症が始まって生活に不便を感じる人もいます。
同じ80代でも、元気な人は自分で車を運転して旅行に出かけたり、スポーツを楽しむこともできますが、逆に寝たきりになって周囲の力を借りないと日常生活ができなくなる人もいます。
10代や20代の頃の個人差なんて、せいぜい体力や筋力ぐらいのもので、それも大きな差にはなりません。5キロぐらいの距離を歩いて1時間かからない人と、もうちょっとかかる人がいるという程度の違いです。
これが80代になると、50メートルも歩けない人と5キロくらいなら平気で歩く人に分かれます。老いてくると、それくらい個人差が大きくなってきます。
この「個人差が大きい」ということを知っていると、同世代の高齢者と自分を比べて嘆くことがなくなります。「老いはそういうもんだ」と受け止めればいいのです。
体力はガクンと落ちても、本を読んだり映画を見たりといった知的な時間なら、同世代の誰よりも楽しむことができるかもしれません。それなら、そういった知的好奇心を満足させるような毎日の暮らしを作っていけばいいことになります。
「でも、それで体がどんどん衰えてしまったら困る」と心配する人もいるでしょう。これも案ずるには及びません。「老い」はゆっくりとしか進まないからです。
「老い」はゆっくりと進む
2.のゆっくりと進むというのは、慌てなくても打つ手はあるということです。「歳かな」と気がついたときに、老化防止のためのさまざまな手を打っても間に合うということです。
たとえば、足腰の筋肉が衰えてきて歩行に不安を感じるようになったとします。
「ああ、歳なんだなあ」と誰でも気がつくし、「これからどんどん衰えていくんだろうな」と悲観的な気持ちにもなってきます。
でも、そこで日常生活にできるだけ歩く習慣を取り入れるようにするだけで、少なくともしばらくのあいだはフレイル状態にはならないで済みます。
このフレイルというのは、自立と要介護の中間状態とされるものですが、高齢になってくると気がつかないうちにフレイルから要介護に進んでしまうことが多くなります。
もちろん、ゆっくり進むから安心していいということではありません。
それだけ油断してしまうことが多くなるし、気がついたら手遅れということだってあり得るのです。そうならないための対策を学んでいくことが大事です。