結城真一郎が今年の夏、オススメするミステリー小説

――この本をキッカケに世界が広がる人がたくさん現れると思います。結城さんのパーソナルな部分についてお伺いしたいのですが、執筆の息抜きなどは何をされていますか?

結城 何に一番時間を使っているかというと、YouTube見てますね。見てるあいだに、もっと執筆しろよって言われかねないくらい(笑)。この本にも、東海オンエアの冒頭の挨拶を引用しているんですけど、虫眼鏡さんに帯を書いていただけて、非常にうれしかったです。あとはコロナ禍になってからはできないですけど、友人と飲み会したり、旅行をしたり、ごく普通の感じです。

――お伺いしたいのが、勉強術というか、どうやって東京大学に入ったのか、これは多くの人が知りたいと思うんですけど……。

結城 特別なことをしていた、というのは本当になくて。ただ、出題傾向とかはよく見ていたし、そこで“ここは押さえておこう”“ここはバッサリ捨ててしまおう”みたいな優先順位をつけて、じゃあどこを重点的に勉強しようかってことを考えるのは好きでした。結果が点数として現れるのも、僕はとても楽しかったですね。

――なるほど。でも、仕分けたところで勉強しないと結果としては反映されないわけで、そこで努力できるというのも大事ですよね。

結城 ありがとうございます。ただ努力したところで、うまく結果として反映されなかったら、途中で辞めてしまってたかもしれないですね。勉強も執筆も、小さな成功体験が積み重なっていくのが大事だなと思います。

 

――ちょうど夏休みという方が多いと思うんですが、これを読んでいる方に、オススメのミステリーはありますか? 例えば、夏が舞台になった作品とか…?

結城 そうですね。夏を感じる作品というと、道尾秀介さんの『向日葵の咲かない夏』、東野圭吾さんの『真夏の方程式』、恩田陸さんの『夜のピクニック』もいいと思います。最近の作品でいうと、似鳥鶏さんの『夏休みの空欄探し』も面白かったです。高校生が主人公なので、今の自分が読むとノスタルジックな気持ちになるんですが、現役の学生が読むとまた違うだろうなって思いました。小説ではなく、映画でいうと夏は関係ないですが『バタフライ・エフェクト』は、もう何度も見ましたね。

人生もオチが見えるのはドキドキしない

――当たり前ですけど、夏を舞台にした作品でオススメは? と聞いただけでバババッと出てくるところに、結城さんのミステリー愛が見えた気がしました。ちょっとお聞きしたいなと思ったのが、結城さんの場合、辻堂さんがキッカケになって行動に移したと思うんですが、好きなことを仕事にする、というのはリスクが伴う行動ですよね? 特に結城さんの場合は、東大出てるのに小説家?って言われることもあったと思うんですが。

結城 僕の考えですが、うまくいかなければ最後に道端で野垂れ死んでもしょうがない、と腹をくくれる人が一番強いですよね。ただ、全員が全員そんな考えはできないですし、家庭を持ってたらそんなことは言えない。だから好きなことを仕事にするために、自分の中でプランをいくつか用意するとか、どこかにある程度の保険をかけておくのが大切なのかなと思います。実は自分も兼業なので。

――そうなんですね。やりたいことをやるために周りを固めていく、という方法は参考になります。

結城 今やりたいことがあったとしても、例えば学生だったら、しっかり大学まで出ておく。そうすることによって、ある程度は家族や周りの人も納得してくれる。そういう地盤固めが必要だと思います。それで挑戦して、うまくいかなかったら、やり方を変えるのか、撤退するのか、何年って期限を区切るのか。なににせよ、好きなことに自分が気持ちよく突っ走れる環境づくりが必要なんじゃないでしょうか。

 

――ちなみに、兼業されているということで、作品作りなどは大変なんじゃないかなと思うのですが?

結城 そうですね。『#真相をお話します』を出版して、ありがたいことにオファーをたくさんいただくようになったので、作品のクオリティを担保するために、考え方とか、単純に小説への向き合い方とかを変えていかなきゃいけないな、と感じ始めています。

――サラッとストイックなことを言いますね…!

結城 いえいえ。ただ、僕が中高と開成出身で、中学に入った時点で、俗に言うベルトコンベアなんです。

――日本有数の豪華なベルトコンベアですけど…(笑)。

結城 (笑)。ただ、そこに入ったが故に、“この道に進んだら、この人みたいなキャリアを歩むんだろうな”というのが、ある程度透けて見えるような気がしてしまって。それはそれでとても尊いことですけど、僕はちょっとそこから外れたいなって感じちゃって。オチがわかりきってるのって、ドキドキしないなって思ったんです。だから小説家になりたかったし、いろいろ考えるのも全然苦じゃない。先が読めないほうが面白いので。

――そこもミステリー好きな一面が顔をのぞかせてますね。

結城 たしかに! 今やっていることのひとつひとつが伏線になって、あとあと効いてくるって考えると、とてもワクワクします(笑)。

――(笑)。結城さんの今後の展望などを聞かせてください。

結城 今回の『#真相をお話します』は、韓国で海外翻訳が決定しているので、言語の違う方にどういう感じで受け止められるのかは、とても興味があります。それこそ自分の書いた作品が映像化されるとしたらすごくうれしいし、ドラマや映画に限らず、お芝居でもうれしい。自分の書いたものが小説とは別の形で世の中に発表されるのは見てみたいですね。

だからといって、映像化を意識して書いていく、というのは違うと思うので。やはり、ただただ自分が書いていて面白いものを書いていきたいですね。今回のような、時代の最先端を切り取るものだけではなく、歴史・青春・ファンタジーなど幅広いミステリーに挑戦したいです。


プロフィール
 
結城 真一郎(ユウキ・シンイチロウ)
1991年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業。2018年に『名もなき星の哀歌』で第5回新潮ミステリー大賞を受賞し、2019年に同作でデビュー。2020年に『プロジェクト・インソムニア』を刊行。同年、「小説新潮」掲載の短編小説「惨者面談」がアンソロジー『本格王2020』(講談社)に収録される。2021年には「#拡散希望」(「小説新潮」掲載)で第74回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。同年、3冊目の長編作品である『救国ゲーム』を刊行し、第22回本格ミステリ大賞の候補作に選出される。Twitter:@ShinichiroYuki