第74回日本推理作家協会賞を受賞した『#拡散希望』を含むミステリー短篇集『#真相をお話しします』(新潮社)。マッチングアプリやYouTuber、リモート飲み会など日本の〈いま〉を巧みに使い、容赦ない「どんでん返し」を作り上げるこの作品は、発売前後からさまざまなメディアで取り上げられ、発売後即重版が決定。ミステリー界で今年一番の話題作だ。

この作品を書いたのが作家の結城真一郎。東京大学法学部出身という異色の経歴を持つ彼に、創作のメソッドや、この夏オススメのミステリー小説、さらに人生観についてまで深掘りしました!

 内容は全て頭の中に!? 驚きの創作術

――こうしてミステリー作家の方にお話を聞くのが初めてなので、ファン目線でいろいろ聞いてしまうんですが、作品作りはどのようにされるんですか? 例えば、まずプロットを作りますよね?

※ストーリーや登場人物を要約したもの

結城 僕、可能な限りプロットは書かないようにしていますね。

――えー!! いや、これって結構な衝撃発言ですよね?(と同席している新潮社の方に同意を求める)

新潮社の方 (笑顔で黙って頷く)

結城 (笑)。少なくとも今回の作品に関しては、何も書かずにそのままキーボードに向かってますね。こういう展開で、ここにはこういう伏線があって……という設計図は、頭の中にあるんです。ただそれを書き出していないだけ。これは完全に僕の中の価値観なんですけど、紙に設定とかプロットを書いた時点で、それがひどくつまらないものに感じてしまうんですよね。

 

――なるほど。でも、たしかに作家というお仕事でいうと、プロットっていらないといえばいらないですよね。書き出すって行為は、誰かに説明するために行う場合が多いから、頭の中にあるものを作品として提示して、結果それが面白かったら、それでいいですもんね。

結城 そうですね。ただ場合によっては、どういう話だとか、ブレストレベルで書き出して提示を求められることもあると思うんです。今回の作品に関しては、プロットを作らず、出来上がったものを編集者さんに見せる、という流れでやらせていただけたので、とても感謝しています。

意識したのは“本を読まない人にも届く作品”

――ミステリーって、編集も特殊だと思うんですが、今回の『#真相をお話しします』において、トリックや伏線も含めて編集者の方から指摘が入ったことはありましたか?

結城 はい。“この伏線の見せ方だと、ちょっと匂わせ過ぎじゃない?”とか、“逆にこれだと弱いかも”みたいなことを言っていただいて、僕は“はい、仰せのままに!”みたいな(笑)。あと収録された話のなかのひとつ、精子提供が大きなキーとなる「パンドラ」という話だと、登場人物にリアリティを持たせるために、全体的なバランスを考えて、ここはちょっとトーンを落としてみたほうがいいんじゃないか、とか。トリック以外にも、いろいろ意見をいただきました。

――テーマとか題材探しなどは、どのように行っているんですか?

結城 最近は、思いついたことを手帳やスマホなどに書き残すようになりましたね。

――例えば、喜怒哀楽、どの感情が作品につながりやすいですか?

結城 それでいうと、感情が始まりになることはあまりないかもしれないです。僕はガジェットが起点になることが多いですね、それこそYouTubeとかマッチングアプリとか。これをどう使うとか、これで何が起こるかな、とか考えるのが好きです。そういう装置を起点として、さまざまな人間模様を描き、面白いミステリーにしたいと思っています

 

――この『#真相をお話しします』は、ミステリー好きの方はもちろん、あまり本に触れていない人たちも面白く読める作品だなと思っているのですが、面白いミステリーを作ることに特化したいというのは、そういうところに現れているのかもしれないですね。

結城 うれしいです。今回の作品を作るうえで明確に意識していたのはまさにそこで、普段はミステリーを読みません、もっと言えば本を読みません、という人に楽しんでもらいたくて書いていました。作品のテーマがYouTubeやマッチングアプリの新しい一面、と「新しい一面」というのがキーワードになっているので。本を読んでない人も、読書やミステリーの新しい面白い一面に気づいてほしいなと思ってました。