痛い素人をモデルにした自信作が完成
数年後に1回戦の持ち時間3分から2分になった。「2分で芸人のネタの何がわかるのか?」という意見もあったようだが、出てきた瞬間のたたずまいや声量、ネタの魅力……2分もあればプロと素人、面白いヤツとそうでないヤツの選別をするには充分だった。
俺は毎年、1年間で一番良かったネタをブラッシュアップしてR-1にぶつけていた。だが、2回戦の壁がどうしても越えられない。最初のうちはショーパブのクセが抜けず、モノマネをはめ込むコントをしていたが、モノマネの才能がないことにようやく気づいた。
ショーパブや営業はモノマネのほうがわかりやすく盛り上がるから、それに甘えていたのかもしれない。となると、賞レースに向けてオリジナルのコントを作る必要がある。
どんなネタを作ろうか頭を捻る日々が続く。
しかし、ヒントは身近なところに転がっていた。俺みたいに売れない芸人をやっていると、「面白くないヤツ」という扱いをあちこちで受ける。そして、初めて知り合った人や、疎遠だった友達に必ず言われる定番のフレーズがある。
「なんか面白いことやって!」
「芸人なんだからボケなきゃ!」
「ほら、ここでツッコんで!」
芸人だったら誰もが経験するこの設定をコントにできないだろうか。自分の身内を笑わせて「芸人負けてるよー! これじゃどっちが芸人かわかんないじゃーん」と勝ち誇り、いい気になっているイタい素人が主人公だ。
これは自信作だったし、芸人にも非常にウケが良かった。モノマネとは違って完全オリジナルだから、ウケたときの感動も倍以上だった。
自信作を引っさげて挑んだR-1だったが、またしても2回戦の壁を越えられなかった。俺は愕然とした。これでもダメなのか。
R-1は年明けに予選が始まるのだが、この頃になると、R-1で凹んだ状態で1年がスタートするのが恒例行事なっていた。
(構成:キンマサタカ)