ショーパブの芸では通用しない

賞レースの予選は戦場のような緊張感があるというが、あれは本当だ。1年間の集大成ともいえる大舞台に一発勝負で挑むのだから、出番前は緊張で顔面蒼白、あまりの緊張で嗚咽してる者もいる。

出番が迫るたび緊張は増していく。そして俺の出番。当時、1回戦の持ち時間1人3分だったから、ショーパブでやっていたことを、ぎゅっとまとめたものをかけることにした。

得意の氣志團モノマネの格好で出ていく。ショーパブのキサラでは、この衣装で出て行くだけでヤンヤと盛り上がるのだが、ネタを見にきてるシラフのお客さんには全く響かない。焦った俺は、すぐにネタを切り替えようと、当時ブレイクしていた長井秀和さんのマネをするため、後ろを向いておもむろにカツラや衣装を脱ぎ捨てる。

すると、そこでお客さんが爆笑した。ショーパブでは早替えなんて当たり前だけど、お笑いのちゃんとしたネタを見にきたお客さんには新鮮だったんだろう。客をほったらかしでケツを向けて着替え始める芸人などいなかったみたいで、それが逆にウケた。

俺としては全く想定外の笑いだった。早替わりで客にケツを向けてカツラ脱ぎ捨てたりするたびに爆笑が起こる。ショーパブや営業で育った俺にはよくわからなかったし、狙ったものではなかったけど、ウケたことはうれしかった。

その結果、1回戦合格。だが、次の2回戦で敗退。悔しさはあったが、それ以上に収穫もあった。それはショーパブや営業などのぬるま湯で笑いをとってるだけじゃ売れないと気づけたことだ。テレビに出れるようなネタを作らないといけない、という焦りを初めて感じた。

それからは、芸人が出演するお笑いライブにも積極的に出るようになった。ネタ作りは地味な作業の連続だ。ライブでウケたところを膨らませ、あまりウケないとこは削って、ネタを叩いて洗練させる作業を繰り返す。

だが、1ヶ月練りに練ったネタだからといってウケるとは限らないし、ライブ直前に思いついた適当なネタが意外とウケたりすることもある。時にはネタが何も浮かばず、仮病を使ってライブを休みたいと思う日もあった。それくらいネタ作りは難しくて苦しい作業だ。

もちろん、ネタに真剣に向き合うようになったからといって、すぐに結果が出るわけではない。R-1の壁は厚かった。キサラライブで優勝したコントで自信満々で挑んだ年も、2回戦落ちだった……。