メガヒットとマニアックな曲のバランスが沼
――この本を読んで改めて感じたのは、サザンオールスターズ、桑田佳祐というミュージシャンの特異さです。こんなに長いあいだ売れ続けて、いい曲を書き続けるって、言葉にすると軽いですけど、本当にすごいことだなって。この要因をスージーさんはどう分析しますか?
スージー デビュー当時は戦略性というよりかは、本当に音楽好きの若者が本能的、肉体的にさまざまな曲を作った、その喧騒、騒々しい当時の空気感が大きかったと思っていて、それを『サザンオールスターズ 1978-1985』という本には込めたつもりなんです。
――サザンの『ザ・ベストテン』初出演は、未だに伝説として語り継がれています。
スージー それが1990年代以降、平成以降のサザンというのは、もっと整備されてきて、わかりやすくシングルでメガヒットを出し、アルバムにはそのヒット曲を入れつつ、ちょっとワケのわからない曲も含めていろいろ入っている。この二段階構造に尽きるんじゃないかと考えています。
例えば、多くのファンが『真夏の果実』や『涙のキッス』を聞きたくて『稲村ジェーン』や『世に万葉の花が咲くなり』などのアルバムを購入して、『東京サリーちゃん』? 『亀が泳ぐ街』? この曲なんだろう?って思うわけです。まあ、この2曲がフェイバリットという方はサザンファンでも少ないと思うんですが(笑)、そんな二段階構造の沼が広くて深くて、どんどん魅了されていく方が多いのかなと思っています。
――なるほど、メガヒットとマニアックな曲のバランスが絶妙ってことですね。
スージー あとは本の後半のほうに書いていますが、メッセージソングはかなり辛辣ですよね。一見ポップな煙幕を張っていますが、かなり根っこは辛い。そこを正面切って語っている評論家もいませんよね、ここらへんに関しては本人も煙幕を張っているフシもあるので(笑)。それを見越しても『ピースとハイライト』は良い曲だな、と。
――良い曲ですよね。
スージー この曲も、MVやパフォーマンスでいろいろ言われた曲ではありますけど。でも僕は、桑田佳祐というミュージシャンが煙幕を張りつつも、メッセージソングから一貫して逃げずに曲を書き続けているのも、“売れ続けている理由なのかな”と思います。
〇サザンオールスターズ – ピースとハイライト(Full ver.)
――たしかに、国民的バンドになってもメッセージソングを出し続けているというのは、サザンの大きな特徴のひとつかもしれませんね。
スージー 戦後民主主義という言葉を本の中でも使いましたが、一般的に言われている言葉の運用とは違った意味で使っていると思っているんです。昭和30年代、40年代に生まれた人々は、まさに『戦争を知らない子供たち』であり、教育も反戦を主としたものがなされていました。
そんななかで生きてきた音楽家、特に桑田佳祐による今の状況に対するメッセージソングが、昔の反戦フォークとかと決定的に違うのは、極めてポップで照れがある、ということ。だからこそ多くの人々に響いていく。だから、桑田佳祐が持つ一流の照れを付随させたメッセージソングが、いちばん強力なんじゃないかなと思ってますね。
――スージーさんが『栄光の男』について書かれていて、“なるほど”と思ったのが、桑田佳祐という人間はプロ野球でいうと、長嶋茂雄も落合博満も同居している人間だと。
スージー はいはいはい、そうだと思います。長嶋の「国民的英雄」と、落合の「個人主義的英雄」。この2つを併せ持っているの、桑田佳祐という人間なんじゃないかなと思っています。