やってみたいのは『THE BLUE HEARTS論』

――桑田さんが、佐野元春さん、世良公則さん、Charさん、野口五郎さんを迎えてリリースした『時代遅れのRock'n'Roll Band』はどう聞きましたか?

スージー 楽曲自体のクオリティもさることながら、ああいうことをあの世代が歌ってくれるというのがまず好ましいし、最後「ダサいRock'n'Roll Band!!」って言いますよね。ああいう感じで聞き手のハードルを下げる、いい意味で世代感が出ているんじゃないかなと思います。

――ちなみに、今の若い子に「これ聴いたら、ぶっ飛ぶんじゃないの?」って感じで、オススメしたいサザンの曲ってありますか?

スージー 難しいですね(笑)。でも選ぶとしたら『勝手にシンドバッド』『ピースとハイライト』、あとは坂本冬美に提供した『ブッダのように私は死んだ』ですかね。桑田佳祐が獣道を開き、荒れ地を肥沃な大地に変えて、エロもコミックソングもメッセージソングでもなんだっていいじゃん、というふうに広げたのは、この3曲を聴いたらわかるんじゃないかなと思います。

そういえば、若いミュージシャンによる作詞のイノベーションというのが、最近あまり見えてこないような気がします。正直、私が知らないだけなのかもしれませんが。

――なるほど。ひとつ思うのは、これだけテクノロジーが進歩すると、若い人たちがバンドを組むということに魅力を感じなくなってしまうんじゃないか、ということです。基本的に曲はデスクトップでできてしまうし、いくら肉体性と言っても、そこの良さをうまく説明できないと良さを伝えることができない。そこはどうお考えですか?

スージー 私も実際、ドラムやベースなど、リズムセクションが生み出すグルーヴというのを、なんとか言葉で説明しようと思うんですけど、なかなか言語化できない。ただ、これは直感になってしまいますが、肉体が生み出す細かい部分のグルーヴというのは、デスクトップで再現できたとしても、やはり生身の人間には敵わないだろう、と思ってます。そこに魅力があるんじゃないか、と。だって、AI美空ひばりがいくらすごくても、生身の美空ひばりには敵わないですもんね(笑)。

――(笑)。たしかにそうですね。

スージー 自分としてはこれからの時代、デジタルに目線を置きながらも、サザンでサポートギタリストをやっている斎藤誠に代表されるような、非常に優秀なプレイヤーにも注視していきたいと思っています。彼らのような方々がいるからこそ、桑田佳祐の肉体的な歌詞が活きると思っているので。

――『桑田佳祐論』の次は『山下達郎論』を読んでみたいな、と思いますが……(笑)。

スージー いやいや!(笑) あの方こそ、ご自身で自分の曲を理路整然と見事に語れる方なので、ご自身に聴いたほうが早い、という。個人的に山下達郎のフェイバリットは、ライブアルバムの『JOY』なんです。先ほど、肉体性の話をしましたが、山下達郎こそ肉体性の塊だと思っています。圧倒的ですね。

――僕からは『山下達郎論』をリクエストしちゃいましたが、スージーさんが次、同じように歌詞ついての著作を書くとすると、どなたのを書いてみたいと思いますか?

スージー どうでしょうね、ユーミンもある程度、語られている気がしますし……今パッと思うのは、THE BLUE HEARTS、甲本ヒロトと真島昌利の歌詞は、歌詞単体で抜き出したとしても批評に十二分に値する歌詞だと感じています。『TRAIN-TRAIN』の歌詞、「見えない自由がほしくて 見えない銃を撃ちまくる」、「自由」と「銃」のレトリックは初見ではない気がしますが、ミュージシャンでこれを使ったのは画期的だな、と思います。

――最後の章には、スージーさん個人の人生とつなげて、この『桑田佳祐論』に懸ける想いというのも語られています。改めて、この本に込めた想いについてお聞きしていいですか?

スージー そうですね。個人的には会社を早期退職して、こういう仕事1本に絞っていく、というなかでの最初の作品でもありますし、これまではいろいろと柵があって書けなかったところまで筆が滑ったのが、この『桑田佳祐論』なんです(笑)。

僕より上の世代の音楽評論家は、歌詞を文学的に解釈するだけのスタイルがほとんどだった。対して僕自身はといえば、これまでは冷静に理系的に音楽を分析するというスタイルのテキストが多かったのですが、今回は理系ではなく文系のほうで音楽を解釈して、日頃見せなかった熱さであったり、戦後民主主義に対する自分の考えを書いてみようと思ったのがこの本です。

――たしかに、スージーさんのパーソナルな部分が熱さを帯びて伝わってきたのは、この『桑田佳祐論』が初めてですね。

スージー あとは、桑田佳祐の歌詞というのを、もっとみんなが論評して意見を戦わせたほうがいいだろうと思いますね。『桑田佳祐論』はかなり個人的な見方で、御本人にインタビューしたわけでもない。自分は戦後民主主義と桑田佳祐という人間を絡めて見立てたけど、異論反論があっていいと思うんです。もっと桑田佳祐の歌詞について、酒の肴にしてほしい、という気持ちがありました。ですので、読んでいただいて、あれこれ意見を戦わせてくださったらうれしいですね。


プロフィール
 
スージー鈴木
1966(昭和41)年大阪府生まれ。音楽評論家。早稲田大学政治経済学部卒業。昭和歌謡から最新ヒット曲までその守備範囲は広く、さまざまなメディアで執筆中。著書に『サザンオールスターズ 1978-1985』『EPICソニーとその時代』など。Twitter:@suziegroove