有馬和樹(vo,g)、牛尾健太(g)、風間洋隆(b)、前越啓輔(ds)による4人組ロックバンドのおとぎ話。2000年に有馬と風間により結成され、これまで12枚のアルバムをリリース。ライブバンドとして高い支持を獲得するほか、山戸結希監督映画『おとぎ話みたい』でのコラボレーションや、根本宗子作・演出の舞台『ファンファーレサーカス』に出演するなど幅広く活動を展開している。

2022年6月にリリースした最新アルバム『US』を引っ提げ、8月13日(土)にはバンド初となる日比谷野外音楽堂を行う、おとぎ話のフロントマン・有馬和樹に、最新作と日比谷野音公演について話を聞いた。

おとぎ話が続いているのは「友達」だから

――おとぎ話のアルバム『US』、非常に素晴らしい作品だなと感じました。ただリリースの資料でひとつ気になったのが、4年ぶりのアルバム、という紹介文で、“あれ、2020年に出した『REALIZE』って、どういう位置づけだったのかな”と思って。重箱の隅をつつくようで申し訳ないんですけど……。

有馬 いえいえ、ありがとうございます。実は『REALIZE』は、当時対外的な要因があって、このタイミングでリリースしよう、となったアルバムだったんですけど、その要因がなくなっちゃったんです。だから、ここで作るつもりじゃなかった、というのが一番近いかもしれないですね。当時ストリーミングで急に発表して、その後フィジカルで出したんですけど。

――なぜそこが気になったかというと、『REALIZE』ってアルバムも僕は大好きで、今回の『US』って、そこと地続きなんじゃないかなって思ったんです。1曲目の「FALLING」から、音楽的な要素は地続きでありながら、歌詞がこれまでより市井の人々に向いている印象を受けて。

有馬 まさに今おっしゃっていただいたみたいに、今回の『US』は、『REALIZE』のモードをもっとリスナーへ向けて、ポップに開いているようなアルバムになるかもしれないですね。

――アルバムを作る前に、こういう作品にしよう、という考えはあったのでしょうか?

有馬 20年バンドをやってきて、このアルバムも12枚目になるんですけど、ロックバンドがロックのアルバムを作る、というスタイル。具体的に言うと、メンバーが出せるものに合わせて作る表現はやりきったんじゃないか、と数年前から感じていたんです。だからもう、そういうものを全て取り払って、自分がやりたいことを形にしたのが『REALIZE』、その可能性をもっと広げたのが『US』ですね。“ここから先のおとぎ話はこれ”って、言えるようなアルバムにしようとは思ってましたね。

――ほかのメンバー、牛尾さん、風間さん、前越さんにはそういう考え、指針のようなものはお伝えするものなのですか?

有馬 かなり明確に言いますね、今回で言うと、ロックっぽい表現を絶対にしないように、と伝えました。

――長く音楽を聞いていると、自分の好きなバンドが解散したり、メンバーチェンジがあったり、「青春の終わりは好きなバンドが解散することだ」と言われることもありますよね。そのなかで、おとぎ話はこの4人がずっと音を鳴らし続けている。それがすごくうれしいんですよね。だから、メンバー間でそういうコミュニケーションは取られるのかなって。取りすぎても取らなすぎても、ギスギスするんじゃないかなって感じていて。

有馬 それで言うと、おとぎ話がなんで続いているかというと、友達だから、ですね。前には、ギターの牛尾が急にライブ来なかったりとかもあったし、メンバー同士で喧嘩したりもしたんですけど、基本的には大学で出会った友達。バンドなんて所詮、他人の集まりだってことを考えたときに、じゃあなんでやってるんだ? というのを、みんなわかってるから続いてる。続けることが目標になったことは一度もないからですね。

――まさに、バンドを手段にしていないから、ですね。

有馬 そうですね。集まって一緒に飯食うのも楽しいし、あとメンバーみんな、俺も含め歳をとってきてるんで、ノリを合わせなきゃなって4人で一生懸命、合わせる練習をしているときも楽しい。俺の無駄な話を、「あー」とか言って全然聞いてくれないときもあるけど(笑)、基本的には尊重してくれてる。所詮は他人だし、でも友達だしって思うと、けっこう許せたりするもんですよね。

コロナ禍だから気づけたこと

――『US』で言うと、一番最初にできた曲はどれですか?

有馬 「FALLING」は一番最初に作り出した、核のような曲ですね、出来上がったのは一番最後なんですが……(笑)。

――この曲は、愛についての歌だと思ったんですが、ポジティブな意味にも、ネガティブな意味にも取れる曲だなって思っていて。

有馬 そうですね。僕、人生は基本的に全てが二律背反、表裏一体、それしかないって思っているんです。恋愛で言うと、出会った瞬間に別れを意識するような人間だったので。例えば、男で生まれた時点で、生物学的には男なのかもしれないけど、精神的に男かどうかはわからないってずっと考えてて、そういうのは普通にあることだと自分は考えているので、それを歌の中で表現できたらなっていうのはずっとありますね。

――それは初期の頃からですか?

有馬 いや、徐々にですね。歌詞を書く人はみんなそう思うんじゃないかと思うんですが、バンドをやればやるほど、男性限定の目線で書くことが自分の中で違和感が出てきました。

――なるほど。あと、この作品は特にコロナ禍を経た、ここ2年の空気が色濃く反映されているような気がしました。

有馬 『REALIZE』を発表したあとも、今の世相が反映されている、という感想をいただいたんですが、実はあの作品はコロナ禍前の作品で。それで言うと、今回の作品は反映されているというか、世の中に対して達観したな、という気持ちが近いかもしれません。

『US』は、性別もそうだし、国境とかも関係ない、普遍的な音楽を作ろうと思っていたし、フェスがたくさんあったときには気づけなかったことに、気づけたかなと思っています。ライブとかフェスでも、SNSでもそうですけど、みんなで共有する、ということが美徳とされがちだけど、それだけじゃないじゃんって、コロナ禍で自然と思えたことですね。

――たしかに、アルバムラストの「ESPERS」は、SNSを使った椅子取りゲーム、マウントの取り合いに疲れていた自分に刺さりました。

有馬 ありがとうございます。「ESPERS」みたいに“ひとりでいいじゃん”みたいな曲をライブで演奏してみんなが盛り上がる、その違和感の面白さ、みたいなのもありますよね。