“心臓が右にあったことで不審者扱い”“怖い人に拉致られて山に埋められ……”。普通の人生であれば1度もないような衝撃のエピソードをいくつも持ち、『人志松本のすべらない話』『さんまのお笑い向上委員会』など、さまざまな人気番組でその話を披露、出演のたびに話題を集めているお笑い芸人・チャンス大城。

その衝撃の半生をまとめた私小説『僕の心臓は右にある』(朝日新聞出版)を7月に出版。帯には同期である千原兄弟がコメントを寄せている。発売までの経緯や、本に込めた思いなどをチャンス大城に聞いた。

▲チャンス大城 インタビュー

出版が決まりかけるも上の判断でNGに

――大城さんがとんでもなく数奇な人生を歩んでいるのは、お笑いが好きであれば知っている話だと思うんですが、今回、こうして一冊の本にまとめようと思ったキッカケはなんだったんでしょうか?

大城 山田清機さんというノンフィクション作家さんが書かれた『東京タクシードライバー』(朝日新聞出版)という本があって、あまり本は読まないんですけど、タクシードライバーをテーマにしたノンフィクション、という帯の言葉に惹かれまして、買って読んでみたら素晴らしかったんです。そこで、Facebookで山田さんとやりとりさせていただいて、一緒に飲みに行ったときに、山田さんから「大城さん、本を書いてみたらいいんじゃないですか?」と薦められて、そこからですね。書き出してから出すまで8年かかりました。

――え?! 8年! そんなに製作期間がかかったんですね。

大城 はい、ずっと少しずつ書いていたので(笑)。実は4年ほど前に一度完成して、今この出来上がりはそこからまたいろいろ足したものなんですが、いろいろな出版社に持ち込んだんです。そうしたら、ある編集者さんがすごく興味を持ってくださって、「大城さん、これ上がOKしたら出版になります、でも安心してください、NGを出されたことは今まで一度もないんで!」って言われて、“やった! 出版や!”と思ってたら「すみません、NGが出ました……」って(笑)。

――あはははは! そんな!!!(笑)

大城 それで、せっかく書いたし、どうしようかな~と思ってたら、山田さんが朝日新聞出版の方を紹介してくださって、なんとか出版までこぎ着けることができたって感じです。そもそもの書くキッカケが山田さんの『東京タクシードライバー』だったので、同じ出版社から出せてよかったです。

――この本には、大城さんの「風船の話」とか「山に埋められた話」とか、信じられないようなエピソードがたくさん収録されてますが、こうして一冊の本になったとき、ご自身で読み返してみてどうでしたか?

大城 あのー、想像より面白かったんですよ(笑)。

――あははは!(笑)

大城 というのは、基本的に僕、なんでも本職の人には勝てないと思ってるんです。これを書いているときも、もちろん書くという行為に対しては真剣だけど、本業の方には勝たれへんやろうな、と思ってて。しかも芸人という職業の特性上、喋り方とか、間とかで笑わせる要素もあるから、エピソードを文字にするよりも、YouTubeで喋ったほうがいいんじゃないかと、ずっと思ってたんです。まあでも、記録用として残しておくのもいいか、と思って書いたんですけど……読みかえしたら“おもろいやん!”って。

――ご自身の人生なのに(笑)。

大城 ホンマに1冊でも多く買ってもらいたい、みたいな邪な気持ちじゃなく、我が人生ながら面白いなーと思いました。

笑いながら近づいて手榴弾の芯を抜いて置いていく

――この本を読んで、大城さんって佇まいも話し方も柔らかいんですけど、内面めちゃくちゃ尖ったままなんじゃないかって思いました。

大城 あはははは(笑)、はい。

――大なり小なり、芸人さんって尖っていると思うし、そうじゃなきゃいけないと思うんですけど、それこそ大城さんは、この本にも出てくる心斎橋筋2丁目劇場の、千原兄弟さんとかに代表される“自分たち以外、誰がオモロイねん”みたいなスピリットを、まだ持ってらっしゃるんじゃないかなと思っていて。

大城 それは確かに自分の中にあるかもしれないな、と思ったのが、“ヘラヘラ笑いながら相手に近づいて、手榴弾の芯を抜いて置いていく”ということができた手応えが、この本にはあったんです。

――映画の『レオン』みたい……。この本には、それこそ近くに手榴弾を置いていきたいくらい、大城さんにひどい仕打ちをしてくるヤツがいますが、基本事実だけを書かれてますよね? その乾いた感じがすごいなと思っていて。『ドキュメンタル』の大城さんもあまり受けをやらずに、終始ただただ面白いことをする、この不動心みたいなのってなんなのかなって思ったんです。

※ドキュメンタル Amazonの動画配信サービス「プライム・ビデオ」で配信されている、ダウンタウン松本人志によるお笑いドキュメンタリー番組。毎回10人の芸人たちが自腹の参加費100万円を手に、芸人のプライドをかけて笑わせ合う。最後まで笑わなかった勝利者には賞金1000万円が贈呈される。

大城 あー、『ドキュメンタル』に関しては、ただただとんでもなく緊張してただけで、人のを感じられる余裕がなかっただけなんです(笑)。始まってすぐに“あ、これ俺向いてへんかも……”と思ったし、ジュニアさんからも「もっと貪欲に行けばええのに」って言われて、“アカンかったかな”と思ってたんですけど、意外と「チャンス大城、面白かった」って言ってもらえてて。でも、あれも全部、千原兄弟のキラーパスあってのものなので……。

――でも、千原兄弟さんが大城さんのことを敬っているのは、この本の帯もそうですし、『水曜日のダウンタウン』での企画「NSC時代に同期一の天才だった芸人、意外とくすぶってる説」でも、ジュニアさんが大城さんの名前を挙げていたことからもよくわかります。しかも、もう一人の同期で名前が出てきたのが、今、「ザ・たこさん」というバンドを組んでらっしゃる、あんどう鰐さん。この方とも大城さんは組んだことがある、どんな才能の集まりなんだよ!っていう(笑)。

大城 (笑)。ザ・たこさんを知ってるんですか? うれしいですね。あんどうさんは足のかかとの皮を炙って酒のつまみにして、「スルメと一緒や」って言ってました。

――あははははは!(笑) 大城さんも含めて、とてつもなく面白い人たちがたくさんいたことが、この本からもよくわかります。先ほどもチラッとそういう話をしたんですが、この本には喜怒哀楽の“怒”が出てこないなと感じたんです。壮絶なイジメも受けて、もっと復讐の気持ちをしたためてもいいのに、その感情が出てこない。大城さんが怒ることってあるんですか?

大城 あー、そう言われてみると、たしかにシラフのときはそこまでキレる、とかはないですね。ただ、せいじさんからは「お前はそんなヤツやない、ホンマはヤバいヤツや」って言われ続けてて。それは、たぶん酒を飲んだときの僕のヤバさを知ってるからだと思うんですけど……。

――この本にもお酒をやめる大城さんが出てきますね。

大城 もう4年飲んでないです。あとは、後輩でなんかひと言いらんこと言うヤツ。それ今言わんでもええのにな~、たぶん舐めてるんやろうな、と思いながら、言い返すことはできないですね。だから、千原兄弟が二人ともいいなって思うのは、舞台上でもガーッと腹立ったこと喋ったりするけど、怒りって、ちゃんと他人と向き合ってるんですよね。俺はそういう意味では、ちょっと冷たい人間なのかもな、と考えたりします。