デビュー前の椎名林檎とのエピソード

――それでも、大城さんの人生には、分岐点分岐点に人間が出てきます。ドキュメンタルでも話されてましたが、本を読んでいただきたいので詳細は伏せますけど、椎名林檎さんとの出会いが、大城さんが芸人人生をもう一度見つめ直すキッカケになった話は、すごいなと思いました。

大城 本当ですよね。デビュー前の椎名さんに一目惚れしたことから、“俺も、もっと頑張らなアカンな”と思ったので。

――その後、椎名さんにお会いする機会はあったんですか?

大城 いえ、まだないんです。ただ、ドキュメンタルでこの話をさせてもらって、名前を出しているのでスタッフの方が確認取ってくださって、それでOKいただいているんで、もしかすると思い出してくれているかもな、とは思います。いつか感謝を伝えたいですね。

――あと、これも軽くネタバレになってしまうんですが、奥様とお子さんと別れなければいけなくなった出来事。これは大城さんのなかでも、まだ消化できない出来事なんじゃないかと思うんですが……。

大城 本当申し訳ないです、という気持ちしかないですね。自分自身、病気もしていたし、稼ぎも少なかったから生活費もろくに渡せなかったですし…。

――ただ、残酷な言い方になってしまうかもしれませんが、それでもお酒をやめなかった大城さんが、すべらない話に初めて出て、その打ち上げでダウンタウンの松本さん相手に酔っ払って絡んでしまったことなど、酒での失敗が多くなり、せいじさんから「酒やめろ!」と言われたことで、きっぱりやめたというのは、かなりいろいろと思うところがあったんじゃないかと推測するんですが。

大城 やっぱり、それまでは責任もないし、そもそも責任があっても感じない人間だったのかな、と思いますね。ヤバいなーと思っても、まあ許してくれるだろう、みたいな人生でした。あのときの話で言うと、ジュニアさんの推薦で『人志松本のすべらない話』が決まって、その収録のちょっと前に『細かすぎて伝わらないモノマネ選手権』で、小出真保さんとの「ザ・ノンフィクション」ネタを披露して優勝したんです。

――短い期間にその2つの番組に出て、結果を残すってヤバいですよね。

大城 河川敷で草野球やってたヤツが、いきなり東京ドームに呼ばれて、巨人軍相手に野球やってる感じでした。あそこで初めてプロ意識が芽生えたんだと思います。ずっとアマチュアの意識で芸人をやってて、いろいろな人に迷惑かけた。こっからは迷惑かけたらアカンな。千原兄弟はせっかく舞台を与えたんやから、“ちゃんとしろや”って気持ちで怒ってくれたと思うんです。売れて金持ちになりたい、モテたい、そう思いながら芸人やってたのが、それからはすっかり消えて。機会を与えてもらえるなら、そこで全力を出し切ろう、そのためには酒をやめようと思いました。

――紆余曲折がありましたが、素晴らしいですね。

大城 でも、ホンマに酒癖悪かったですから、迷惑かけた方々には謝りたい気持ちしかないです。

 

すべらない話の打ち上げがあってよかった

――1番すごいお酒の失敗ってなんですか?

大城 パッと思い出すのは、甲州街道でいきなり車道に出て車停めたりとか……死ななかったのが不思議なくらいです。

――あはははは!(笑) いや、そんなこと言ったら、そんなエピソードばかりですよ(笑)

大城 恥ずかしい…(笑)。この本にも書いたんですけど、今は酒をやめて、道端の吸い殻拾いを続けてます。もともとは“これをしてたら仕事来るかなあ”と思ってやってたんで、ちょっといやらしい気持ちもあったんです。でも、今は“どこか過去の過ちを許してほしい”という気持ちも持ってるかもな、と思っています。

――すごく陳腐な言い方になりますが、やらない偽善よりやる偽善だから、大城さんの行為は良いことでしかないと思います。そもそも河川敷で野球やっていたのが、急に巨人と戦えるっていうのは、降って湧いたような話だと思うんですよね。そこで多くの怠惰な芸人は努力をしないと思うんです、今のその立場は他の誰かが用意してくれたのに。大城さんはしっかりをお酒を断って、今があるのが本当に素晴らしいと思います。

大城 ありがとうございます。僕、なにが1番好きだったかって、平日の昼間から酒を飲んで、人の悪口言って、夢語ってるのが1番好きだったんですよ。

――あはははは!(笑) でも確かに絶対楽しいですよね。

大城 あの頃は自分に“俺は趣味でお笑いやってるんや、どこで野垂れ死んでもええわ”って言い聞かせてました。でも、もう今は絶対戻りたくない。だから、本当いろいろな人に迷惑かけましたけど、すべらない話の打ち上げがあってよかったって思います。

――例えば、あの頃に戻りたいな、みたいな気持ちはないですか?

大城 それで言うと、2019年のR-1ぐらんぷりの準々決勝の会場に戻りたいですね。あのときは予選のウケがすごくて、周りからも「絶対、決勝行ける」って言われてたんですけど、それで逆に周りの意見を聞きすぎてしまって……もうR-1出られないので、そこに戻って、ちょっとやり直したいなって気持ちはあります。