皆さんは研究者というと、どういうイメージをお持ちでしょうか? 白衣を着て、見た目や服装には無頓着、暗い研究所で薬品を振る、社会性のない人物を想像する方が多いのではないでしょうか。
長年、小学生に聞いた「将来なりたい職業ランキング」のベスト10圏内に安定して入る、子どもの憧れの職業でもある研究者の間違ったイメージや、研究者になる方法など、研究者のあれこれを、『脳を司る「脳」』(ブルーバックス)で、講談社科学出版賞を受賞した大注目の脳研究者、毛内拡氏が語ります。
※本記事は、毛内拡:著『脳研究者の脳の中』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
研究者の大半はごく普通の常識的なサラリーマン
ドラマやアニメによく出てくる研究者は、メガネで白衣を着ていて、見た目には無頓着で髪はボサボサ、小難しいことをブツブツと呟いている。頭の中は研究のことでいっぱいで、社会性に乏しく、世間知らず。なんだか浮世離れしていて、自分とは住む世界が違う、とっつきにくい存在、そんなイメージがあるかもしれません。
一方で、自分の好きなことに熱中できて、スーツなど着る必要もなく、人に頭を下げる必要もない、好きなときに起きて、寝食も忘れて研究や読書に没頭していて、羨ましいと思うこともあるのではないでしょうか。
どちらのイメージも半分正解で、半分間違いというところでしょうか。確かに、私から見てもクセの強い、ザ・研究者然としている人もいるにはいますが、大半はごく普通の常識的なサラリーマンに過ぎません。
小学生に聞いた「将来なりたい職業ランキング」によれば、研究者(大学教授)は、安定してトップ10に入っており、案外みんなの憧れの職業なのかもしれません。娘が通っていた保育園では、病気を治したいから将来は研究者になりたい、と言っている園児が多数いるというのを聞いて、うれしく思ったことがありました。
では、研究者になるためにはどうしたらよいのでしょうか。
研究者という職業に就くためには、いろいろなルートがあります。一番わかりやすい例は、大学の教員になるケースです。大学の先生の仕事は多岐にわたっているため、ひょっとすると、ちゃんと研究ができている人は稀なのかもしれません。
次に、研究機関の研究員になるというケースもあります。いわゆる「〇〇研究所」というところに所属している研究者です。研究所の研究者は、研究成果を出すことが一番の目的ですので、比較的研究に専念できる立場にあるといえるでしょう。あるいは、一般の企業に勤めて研究職に就くという選択肢もあります。
また、病院に勤めているお医者さんも研究者ですし、高校や高専の先生をしながら研究を行うこともできます。博物館や美術館などの学芸員も研究者です。さらには、最近では在野研究者といって、特に所属を持たずに個人的に研究を続けるという選択肢もあります。
こうしてみると、研究者になるルートにはさまざまなものがあって、こうでなければならないということはありません。今この瞬間からも、あなたは研究者を名乗って差し支えありません。
どうでしょう、研究者というのを少し身近に感じてもらえたでしょうか。
皆さんが思い浮かべる研究者の仕事は?
研究者の仕事というと、どういうものをイメージされるでしょうか?
試験管をふったり、怪しい液体を混ぜ合わせてモクモクと白い煙が立ったりしている感じ。黒板に難しい数式を書き殴っては「わかったぞ!」と言って興奮している感じ。部屋に閉じこもって黙々と研究をしており、世間とは隔絶しているような印象……だいたいそんなイメージなのではないでしょうか。
でも、実はそんな研究者は稀で、足で稼ぐことが求められるのも研究の意外な一面だったりします。研究者も人に会い情報交換をしたり、共同研究の打ち合わせをしたり、技術やアイディアを売り込みに行ったりといった、いわゆる外回りの仕事もあります。インタビューやフィールドワークが必要な研究や、研究材料となる生き物や試料などを観察や採取しに出かけることが必要な研究活動もあります。
もちろん、研究活動は研究者の本分ですが、研究者の仕事は研究をすることだけではありません。研究者だって、白衣を脱いで外に出る必要もありますし、時にはスーツを着ることもあります。学会などでは社交性が試されることもあります。これについては後ほど詳しく書きたいと思います。
雇われている身ならサラリーマンと同様、上司や同僚、部下とのコミュニケーションもあります。研究成果の報告会や、研究資金獲得をかけた面接などのために都心へ出ていくこともあります。
さらに、教育と啓蒙活動も研究者の重要な使命の一つです。研究の技術や知識を後進に伝えるということもありますし、大学や高校で授業として教えるのも研究者の仕事です。
本を書いたり、テレビに出たりすることで最新の研究成果を、一般の皆さんにわかりやすく解説したりするのも大事な仕事です。
「あいつはテレビばっかり出てタレント気取りか」なんて厳しい批判もありますが、私は、研究者としての仕事に貴賎はないと思っていて、テレビに出て、科学に親しみを持ってもらうというのも大事な仕事だと思いますし、そういう風潮を作り出してくれたパイオニアの方々に敬意を表したいと思います。
このように、一般向けにわかりやすく研究成果を伝える活動のことは、アウトリーチ活動と言われています。特に最近、大学や研究機関でこのアウトリーチ活動が重要視されています。新しい研究成果が出たり、受賞したりした際には、その成果がウェブサイトでプレスリリースとして公開されます。
これをもとにして、新聞記事やウェブの記事が書かれるため、正確かつわかりやすさが求められる非常に重要なものです。これを執筆するのも研究者自身の仕事ですが、最近では、広報活動やアウトリーチ活動をサポートしてくれる専門家が所属し、指導にあたっているケースもあるようです。