キャリアの分岐点はコンバートとモデルチェンジ
守備の負担軽減に関しては、遊撃手からどのポジションにコンバートをさせるかだ。現状、負担が少ないとされる一塁手や三塁手、両翼のポジションには20本塁打以上を記録している選手が並んでいる(中田翔、岡本和真、アダム・ウォーカー、グレゴリー・ポランコ)。
そのため、坂本は少なくとも同レベルの成績を残さなければいけない。一方、4選手はいずれも大きな波があるタイプのため、たとえば岡本を2018年から2019年シーズンのように、一塁手や外野手としても起用ができれば、坂本もうまく流動的に起用ができる。
坂本のこれまでの実績を見ると、打撃が安定しはじめた2016年シーズンからは、2017年と今シーズン以外は20本塁打以上、またはそれに近い成績を残している。さらに、打率に関しても昨シーズンの.271が一番低いこと鑑みると、守備の負担が減れば最低限、打率.280は残せそうに思える。
仮に一塁手や三塁手、両翼にコンバートをされるなら、2019年シーズンのように、「バレル」(MLBの新指標で打球速度と打球角度のハイレベルな組み合わせ)を狙う=長打力のある打撃スタイルを築き上げるのがベターだ。守備の負担が軽いポジションを守ること、そしてこの長打を狙う打撃スタイルで、長いシーズンを戦えるかがポイントになっていくだろう。
2020年以降、坂本は怪我などの影響により、3割を超えたシーズンはない。拙著『巨人軍解体新書』(光文社新書)にも記載したとおり、打撃フォームのスタンスの広さも重要になっていく。沈み込むフォームは、2019年シーズンのようにトップクラスの長打力が見込めるが、下半身に多大な負担がかかるため、トレードオフ(両立できない関係性)な部分が大きい。
仮に負担がかからないポジションでも、長いシーズンにおいてフィジカル面が耐えられるかが難しいのであれば、なるべくスタンスを狭くして、結果を残せるようにモデルチェンジをすることも重要だろう。それはまさに2016年・2018年シーズンや、2017年WBCのような打率や打点を稼ぐ坂本の打撃スタイルであり、吉川尚輝を遊撃手にして、坂本を二塁手としても検討するのもいいだろう。
来年のWBCの代表選出と3000本安打の可能性は?
来年の3月には、いよいよ第4回WBCが開催されるが、坂本の選出に関しても注目だ。これまでのキャリアでは、WBCとプレミア12にいずれも2度出場をして、2019年のプレミア12では初優勝。昨年開催された東京五輪では見事に金メダルを獲得した。
代表でもこれだけ申し分のない実績を持つ坂本は、精神的支柱として選ばれていいのではないだろうか。なぜなら、現役選手でここまで国際大会を知り尽くした選手はいないからである。仮に坂本のコンディションが大会中に上がらない場合は、チャンスに対する勝負強さを活かして、代打として起用もできる。ベンチにいるだけでも大きな存在になるだろう。
〇【世界一から1年】2019プレミア12 決勝戦プレイバック
直近の国際大会を見てみよう。前回大会のWBCでは、バランサー=ポジションのつなぐ役割として打率.417を記録。東京五輪も、開催前は怪我などで出場が危ぶまれたが、実質的にキャプテンのポジションとして、初戦でサヨナラタイムリーを放ち、チームを勢いづける活躍を見せた。結果的に、大会を通して打率.333 、1本塁打、4打点を記録。金メダルに大きく貢献した。このように背中で引っ張る坂本のキャプテンシーは必要である。
3000本安打の可能性にも触れたい。2000本安打までは極めて順調と言えたが、近年は自慢の体の強さに陰りが見えているため、このままでは難しい状況というのが本音だ。しかし、モデルチェンジやコンバートにより、息を吹き返す可能性は高い。だからこそ、早ければ今年の秋季キャンプから、モデルチェンジやコンバートに取り組んでほしい。
ただ、これまで巨人を引っ張ってきた坂本の意向もあるだろう。遊撃手として、キャリアを終えたい気持ちもあるなら、ギリギリまで今のスタイルを貫く可能性もある。3000本安打と遊撃手のどちらかを取ることによって、今後のキャリアは大きく変わっていくだろう。