殿との飲み会にまさかのお呼ばれ
殿とは、もちろんビートたけしさんのことだ。俺は狂喜乱舞した。小さい頃から憧れたテレビの中の大スターと一緒に飲めるなんて。さすが兄貴、長いことたけしさんの付き人をやっていただけのことはある。
「空いてます! すぐ向かいます!」と即座に返して、高円寺に向かう。緊張してお店に入ると、兄貴の横に地味な男性が座っている。
「初めまして」と挨拶しようと近くに行ったら、ビートたけしさんのものまねをしているジャンみやがわという芸人だった。
「TAIGA、殿だぞ!」
「ジャンさんじゃないですか!!」
「なんだ知り合いか?」
「知ってますよ!」
「わり〜わり〜」
という、どうでもいい会話をしながら、肩を落としたのは言うまでもない。
それからしばらくして、また兄貴からメールが来た。「殿と飲んでるから暇なら来い」と。さすがに俺は疑った。「ホントにたけしさんなんですか?」と返すと「ホントだから早く来い」と返事がきた。今度も慌てて高円寺に向かうと、またしてもジャンみやがわがいる。
「いやいや、前にも同じことされましたよ」
「え? 前にも会ったっけ?」
兄貴は酒がさほど強くないので、前に同じくだりをやったことを覚えていない。それなのに初見のテンションでやってくるから、こっちも困ってしまう。結局、その日も遅くまで飲んでお開きとなった。
たけしに会える会える天丼
それからまたしばらくして兄貴からメールが入る。
「殿と飲んでる。来れるか?」
もう騙されない。行った先に待っているのはジャンみやがわで決まりだ。
「いやいや、ジャンみやがわですよね? もう2回同じことやってますよ!」
すると兄貴から「いやマジで、ジャンみやがわじゃない。本当なんだ。マジで殿に紹介したいから、すぐに来い!」と返信がきた。
本当にたけしさんと飲ませてもらえるのか。あのたけしさんとお話しできる機会がくるなんて思ってもいなかった。急いで準備をしてすぐに高円寺に向かう。小刻みに震える手をおさえつけガラガラと扉を開けると、店にいたのはショーパブで顔馴染みのそっくりさん「ビトたけし」さんだった。
「おーTAIGA! 殿だぞ!」
もう二度と、この人の言うことは信用しないと思った高円寺の夜だった。