0歳(!?)の頃から魚に親しみ、まだまだ謎が多いとされている幼魚を採集・研究する岸壁幼魚採集家、そして今年オープンした幼魚水族館の館長としても活躍中の鈴木香里武。ブロンズヘアにセーラー服という出立ちから、新しいタイプの魚専門家? と印象を持たれるかもしれないが、インタビューを通じて話を聞いてみると、単なる専門家や研究者、ましてや魚タレントとは全く違う、新世代の魚プロデューサーであることが発覚。その真意、そして好きを仕事にする極意を聞いてみた。

▲専門家、研究者、タレントなどにカテゴライズされない、新世代の魚プロデューサー・鈴木香里武

ブロンズヘアとセーラー服はキャラ作りではなく15歳から

――0歳の頃から魚が好きだったそうですが、物心がつく前ですよね?

鈴木 休日のたびに、両親が僕を海へ連れて行っていたみたいです。しかも、砂浜とか海水浴場ではなく漁港で、隅っこにビニールシートを敷いて僕を寝かせて、両親はたも網を持って魚捕りに行ってしまう(笑)。なので、0歳のときから漁港の香りとか、潮風や波の音とかに包まれ育ってきました。

――岸壁幼魚採集家の原点が0歳なんて、すごいご両親ですね! 

鈴木 海が大好きで、カリブ海にちなんで“香里武”という名前をつけるぐらいですから。

――その名付け親は、明石家さんまさんというのは本当ですか?

鈴木 はい。両親がラジオ番組の制作に携わっていたので、さんまさんにお世話になっていて。あるとき、自分の子どもには海にちなんだ名前を付けたいと伝えたら「カリブ海のカリブ(香里武)でええやん!」となったらしく。今となっては憶えてもらいやすいので、本当にさんまさんに感謝です。

――ブロンズヘアもセーラー服というスタイルになったのは、どういった経緯があったんですか?

鈴木 15歳のときに将来のことを真剣に考えたりしていて、いろいろ心境の変化があって、まずは黒髪を卒業したくなってしまって。ちょうどその頃に、映画『ベニスに死す』を見て、タッジオ(ビョルン・アンドレセン)という美少年がものすごく魅力的で、まさに金髪&セーラー服という出立ちで「これだ!」と。あんなにも美少年ではないですが(笑)。

▲金髪&セーラー服を始めた16歳の頃の写真

――セーラー服は船乗りの制服ですからね!

鈴木 そうなんです。日本では女学生の服でコスプレになってしまうので、男性用をオーダーメイドで作ってもらっています。だから、このスタイルはキャラ作りでもなんでもなくて、15歳の頃から続けている自分の素の姿なんです(笑)。

――0歳からずっと魚や海が好きだと思いますが、他のことに興味は湧かなかったんですか?

鈴木 電車や昆虫が好きだった時期もありました。でも、両親と一緒に魚を採って水槽で育てる生活をしてきたので、その魚好きを果てしなくこじらせてしまったという……(笑)。

――さかなクンの存在も大きかったそうですが。

鈴木 そうですね。さかなクンを知ったのは小学4年生ぐらいで、出演されている番組をたまたま見かけました。その瞬間から「この人に絶対会いたい!」と思って、なんとかツテを辿って会いに行って、一緒に水族館に行ったり、家族ぐるみというか、かなり親しくお付き合いをさせていただいています。

――香里武さんから見た、さかなクンの凄さとはどんな部分ですか?

鈴木 魚に対する接し方や見方、その視野の広さにものすごく影響を受けました。それまでイメージしていた魚類学者は、魚を種類として捉えていたんです。でも、さかなクンは種を越えて“個”として魚たちを見ている。同じ種類の魚がたくさんいても、それぞれの顔や性格の違いを把握して付き合っていく。そういう視点の人って、僕はそれまで知らなかったので価値観が変わりました。

光栄にも〈二代目・さかなクン〉というキャッチフレーズを付けていただくこともありますが、唯一無二の存在なので、二代目はこの世に存在しないと思っています。だからこそ、彼とは異なる方法で魚の魅力をどう伝えるか? ということを自分なりに考えるようにもなりました。

――それぞれ役割がありますからね。

鈴木 そう考えたときに、魚のことを直球で紹介するのではなく、例えば、魚と音楽、魚と絵画を結びつけて何か作品を作ったり、イベントをやってみたり、別の分野と魚をくっつけることによって、たくさんの入り口から魚の世界に触れ合ってほしいなと。いろんなジャンルのスペシャリストとつながって、魚といろんなジャンルを組み合わせたコラボレーションこそが、自分のやりたいことだと思ったんです。

▲穏やかに、そして理路整然と語る

魚には近いけど遠い、遠いけど近いという神秘性ある

――心理学の側面から魚を捉えているのが、香里武さんならではですよね。心理学の視点から、魚が人にもたらす影響には、どんなことがあるんでしょうか?

鈴木 大きな作用は「癒し」の部分です。一般的にはカラーセラピーなどが人気だと思いますが、魚もさまざまな色があるので同じような効果がある。それを体験できるのが、水族館ですよね。よく、水族館は癒しの空間だ、とも言われますが、なぜ癒されるのか調べようと思ったら、世界にほとんど研究例がなかったので解明したくなって。

――実際、なぜ水族館で魚を鑑賞すると、人は癒されるのでしょうか?

鈴木 たくさんの要因があるんですが、やっぱりひとつは色で、しかもそれがランダムに動いているということ。例えば、焚き火の炎の揺らぎを見ていると落ち着くと同じように、魚が泳ぐランダム性や浮遊感によって、癒されていくんです。

――なるほど!

鈴木 それと、水族館ならではの距離感も大きいのかなと。動物園は同じ空気の世界を生きている生き物たちがいて、動物によっては触れ合うこともできますよね。アニマルセラピーという分野がありますが、犬や馬などに触れ合うことによって、心を閉ざしていた子どもがだんだん心を開いていったり。ただ、触れ合えたり意思疎通があるからこそ、ときには独特の緊張感や心の負担もある。

それに比べて、魚というのは絶対に触れ合えない。水と空気の世界を、アクリル板やガラス面というバリアで区切られている。この絶妙な距離感が、押し付けがましくない癒しを提供してくれている気がするんですよ。近いけど遠い、遠いけど近いという神秘性が、人の心を掴んで離さないんじゃないかなと。