幼魚水族館は小さいことが最大の長所になっている
――2022年の7月に、香里武さんが館長を努める『幼魚水族館』がオープンしました。なぜ幼魚にフォーカスを当てたのですか?
鈴木 きっかけは、身近な存在だったからです。幼魚が生息する漁港って、船やロープで囲われているので、大きな魚があまり入ってこない絶好の隠れ家。さらに、敵に見つからないために擬態したり透明になったり、身を守ることを徹底的に考えて進化してきたんです。その生き方や物語に魅了されて、沼にハマりました(笑)。
――あまり知られてない分野でもあるんですね。
鈴木 そうなんです。魚類学のなかで、稚魚や幼魚の研究は後回しにされてしまう。というのも、うなぎの養殖とか全身トロまぐろなど、人々の生活に関係する研究が優先されるからなんです。なので、自分の足元の海には、まだまだ研究材料がたくさんあるなと。
――そもそも、水族館はずっとやってみたかったのですか?
鈴木 小学生からの夢でした。でも、一般的な水族館は人気がある大きな魚がメインで、小さい魚はよく見えない……で終わってしまう。でも僕は、それぞれ必死で生きている小さい魚たちをスターにするために、専門の水族館を作るしかない! と思ったんです。
その想いを話していたら、さかなクンとは別のもう一人の師匠である石垣幸二さん(海の手配師)が「香里武の頭の中を具現化しよう!」と実現の機会をいただけたんです。
――一般的な水族館とは違う、『幼魚水族館』ならではの特徴はどんなところですか?
鈴木 小さい魚は隠れやすいので、どこにいても見つけやすく、スマホで写真を撮りやすいようなオリジナルの水槽を使用しています。
――ご自身が捕獲した幼魚もいるんですか?
鈴木 います! 駿河湾の漁港を再現したコーナーもあるので、そこにいるメンバーは、春夏秋冬で変わっていきますね。
マイルーペを持参して丁寧に観察するお客様も!
――まだオープンして数ヶ月ですが、お客さんの反応はいかがですか?
鈴木 想像以上に良くて。一般的な水族館とは違って、小さい魚ばかりなので、見づらいとか写真映えしないと言われてしまうのかなと思っていましたが、ぜんぜんそんなことなくて。小さいことは短所になりそうですが、幼魚水族館ではそれがすごい長所になっているんです。
大きな水槽は離れたところからぼんやり見て、じゃあ次の水槽へ、ということもありますよね。でも、小さい魚だと近づかないと見えなので、必然的に距離が縮まる。そのことで、魚たちの可愛らしい仕草とか、表情の豊かさに気づいてくれるようになるんです。
――たしかに、見る側も一生懸命に観察しようという気持ちになりますね!
鈴木 来館者の反応から、僕らもたくさんの発見もいただいています。オープン直後に、とあるお客様がマイルーペを持参して来てくださったんです。僕らとしては「この方、わかってるなぁ!」という感じで、これぞ観覧の正しい姿だと思いました。でも、みんながルーペを持っているわけじゃないので、それなら公式グッズとして販売したら、もっと楽しんでもらえるかなと。いろいろなことを、お客様から教えてもらっています。
――そうなると、幼魚水族館にお客様の贔屓の魚や、スター幼魚が誕生しそうですね。
鈴木 まさに! 現状でも、館長の独断と偏見で選ぶ「幼魚アイドルベスト10コーナー」があるんです。そのなかで人気なのは、さかなクンの帽子のモチーフにもなっているハコフグの赤ちゃんです。おちょぼ口で本当に泳ぐサイコロみたいな形をしていて。あとは、ハリセンボンも表情が豊かで人気ですね。
それと、海釣りでよく釣れるナマズの仲間のゴンズイは、毒を持っているので一般的には嫌われ者なんです。でも、赤ちゃんの頃はものすごい密集度で群れを作って、1匹の大きな生き物のように見せて身を守る。その乱舞する様子がすごい人気です。大きな水族館ですと、いわしトルネードなど人気ですよね。幼魚水族館では、今まで嫌われ者扱いだったゴンズイがスターになってくれてうれしいです。
――当然ですが、それぞれがいずれ大きな魚へ育っていくと思います。成長した魚たちはどうなるのでしょう?
鈴木 大きくなった幼魚は「卒ギョ式」を開催して、日本全国の水族館に無償提供をします。ですから、これからこの魚は、東京のサンシャイン水族館で見られますよ、という感じで。そうやって、それぞれの物語をどんどんつなげていきたいなと思っています。
≫≫≫ 明日公開の後編へ続く
〇Fun Work ~好きなことを仕事に~ <魚プロデューサー・鈴木香里武(後編)>