コロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻を経ても他の主要国が成長し続けている中、
日本だけが経済規模を縮小させています。現在も、歴史的な円安が報道されています。

その原因は、日本独特の思想である「反成長」と「平和主義」にあるという見方があります。これらの思想は如何にして日本の国力を衰退させているのか、元内閣官房参与で、京都大学大学院教授(レジリエンス実践ユニット長)である藤井聡氏が、過去の植民地事例を交えて滅亡に向かう日本の姿を映し出します。

今まさに滅び去ろうとしている日本の現状をハッキリと捉え、どうすることで日本滅亡に抗うことができるのか、今一度真剣に考えてはみませんか?

※本記事は、藤井聡​:著『グローバリズム植民地 ニッポン - あなたの知らない「反成長」と「平和主義」の恐怖』(ワニブックスPLUS新書:刊)より一部を抜粋編集したものです。 

平和主義・反成長こそ、日本衰退の原因

日本は如何にして滅び去るのか、そして日本が滅び去るというのは、一体いかなるイメージなのか、そしてそれを導いているものは一体何なのか──本書ではそういう日本の滅亡をリアルにイメージする事を通して、私達の精神の深い部分での諦念を醸成すると同時に、それを導いている悪しき原因とは何かを論じます。

筆者はこれまで日本をダメにした思想として、緊縮主義(財務省がカネを使おうとはしない、政府における質素倹約主義)や新自由主義(政府の公的な仕事を、民間に自由にやっていってもらいましょう、という自由放任主義)を主たるターゲットとして批判してきたのですが、今回はそれとは少し違った角度から、というよりもむしろ、その「背後」にある「より深い原因」を掘り出し、批判しようと考えています。

そのより深い原因とは「平和主義」と「反成長」の二つです。

「平和主義」とは、誰に聞いても否定する人もいない、誰もが賛同するであろう概念のように見えます。戦争よりも平和がいいに決まっているからです。しかし、そうであるからこそ、この平和主義というものは厄介なものなのです。

なぜなら、「平和になりたい、平和が一番だ」、とどれだけ口にしていたところで、平和が続くとは限らないからです。それはさながら、「友達と仲良くしたい、友達と一緒にいるのが一番楽しい」とどれだけ口にしていても、それだけでは友達なんて一人も作れない、というくらいの当たり前の話です。

実際、平和を維持するためには、軍事力の増強が求められることが往々にしてあります。そもそも戦争は軍隊が引き起こすものであり、したがって、軍隊さえ無ければ戦争なんて起きない、と短絡的に考えてしまう人もいるかもしれませんが、決してそんなことはないのです。戦争とは「軍事力の不均衡」が起こすものなのです。

一方が圧倒的に軍事力が強く、一方が圧倒的に弱い時に、戦争が起こるリスクが拡大するのです。最近ではロシアのウクライナ侵攻はまさにそういう不均衡があったからこそ起こったものなのです。少し前のイラクのクウェート侵攻も然りですし、そんなイラクに対して米国を中心とした多国籍軍が攻め込んだのも、米国を中心とした多国籍軍の方がイラク軍よりも圧倒的に強かったから起こったのです。

もしも、それらの国々の間の軍事バランスがある程度拮抗していたとすれば、いずれの戦争も起こらなかったのです。実際、ウクライナに攻め込んだロシアに対して、アメリカのバイデン大統領は早々に「アメリカ軍を派遣することは無い」と宣言したのは、米ソの間に圧倒的な軍事格差が「無かった」からなのです。

だから、戦争を回避し、平和を維持するためには軍事力の増強が必要となることがあるわけで、したがって、本当に戦争を回避しようとするなら時に、軍事力を増強しようとするものなのです。これこそが「真の平和主義」と呼ぶべき態度です(言う迄もなく、筆者はこの「真の平和主義」を強く支持しています)。

▲軍事力を増強することが「真の平和主義」である イメージ:ss21 / PIXTA

幼稚で愚かな感情的な代物

しかし、日本に蔓延っているのは、そういう現実的な平和主義ではありません。それよりもむしろ、(新聞社で言うなら)朝日新聞に象徴されるいわゆる「サヨク」と呼ばれる人々が好む、もっと軽薄な平和主義です。それは、上に述べたようなリアルな安全保障を巡る現実的状況を全て度外視し、「平和が好きだ」と言い募り、「軍隊なんて持つのは嫌だ」と叫び続けるだけのメンタリティ、心情を意味します。

こうした軽薄な平和主義は、真の平和主義の巨大な障害となり得るものです。なぜなら、戦争というものは軍事力のインバランスで生ずる一方、軽薄な平和主義者たちはそんな現実を度外視して、ただただ戦争が嫌だから軍事力増強なぞもっての他だと叫び続け、軍事力のインバランスをさらに拡大させ、かえって戦争リスクを高めてしまうからです。

したがって、この軽薄な平和主義は、幼稚で愚かな感情的代物に過ぎないわけです。

しかも、こういう幼稚な平和主義が恐ろしいのは、軍事力増強を徹底的に忌み嫌うあまり、軍事力増強に繋がり得る「強力な政府」それ自身を忌み嫌うという点にあります。そうなると、政府はどんどん弱体化し、外国から軍事的に攻め込まれるリスクがどんどん拡大していくことになります。軍事的に侵略されずとも、外国の好き勝手に政治が支配されていくことにもなってしまいます。

仮に外国から干渉されずとも、政府が弱ければ、自然災害や世界的な経済不況やパンデミックなどが生じた場合、適切な対処など何もできず、それらのアクシデントの直撃をもろに受け、諸外国とは比べものにならないくらいの巨大被害を受けることになります。

なお、「強力な政府」を忌み嫌った場合、当然ながら、財政政策については積極財政ではなく、緊縮財政のイデオロギーが好まれることになります。そして、経済産業政策については、政府の仕事をどんどん民間に任せるように仕向ける「新自由主義」を是認するようになっていきます。

▲幼稚な平和主義は国家そのものの衰退を招く イメージ:K@zuTa / PIXTA