アメリカの中間選挙が行われ、当初の予想に反して接戦となっていて、まだ大勢が判明していない。アメリカの場合、共和党が保守で、民主党がリベラルと言われているが、日本人にはその区別がつきづらいかもしれない。そこで評論家の八幡和郎氏にイギリスとアメリカを例に「リベラル」について解説してもらいました。

※本記事は、八幡和郎​:著『安倍さんはなぜリベラルに憎まれたのか -地球儀を俯瞰した世界最高の政治家-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。 

イギリスのリベラルは宗教から始まった

もともと、リベラルとはイギリスの政治用語で、英語の「リバティ(自由)」の形容詞かつ名詞であり、「自由の」「自由主義の」と訳される言葉です。17~18世紀のトーリー党に対するホイッグ党、19世紀の保守党(コンサバティブ)に対する自由党(リベラル)。つまり、ビクトリア女王時代のベンジャミン・ディズレーリ首相に対するウィリアム・グラッドストン首相、という流れから発生したものです。

わかりやすくいうと、伝統的な支配層である貴族階級や地主などと結んでいたのが保守党で、植民地経営に熱心でした。これに対して、新興ブルジョワジーの価値観を代表して、参政権の拡大を要求し、経済においては自由主義、「植民地よりも自由貿易で稼ぐべし」という路線が自由党でした。

宗教について保守的なのが保守党で、宗教の束縛を嫌うのが自由党です。この二者の対立が、イギリスにおいて健全な二大政党制を確立させていきます。

これがややこしくなったのは、第一次世界大戦の頃から左派の「労働党」(レイバー・パーティ)が出てきたことです。労働者の生活の向上を唱え、失業保険の充実、社会保障制度の整備などを目指す労働党は、保守党とは別の意味で反自由主義でした。

そのうちに、保守党が通商問題において保護主義を放棄して自由貿易支持に転換し、昔ほど反資本主義的なことを主張しなくなりました。また両大戦間に、自由党の支持者を保守党と労働党がそれぞれ取り込むようになって、自由党は二大政党から脱落しました。

自由党は、その後、労働党右派の離党者も招き入れて、1988年に「社会自由民主党」となり、1989年には「自由民主党」(リベラル・デモクラッツ)に改称しました。ときどき、第三勢力として二大政党に不満な人々の受け皿になり、最近ですと、2010年から2015年まで、キャメロン内閣で保守党と連立政権を組んでいました。

▲イギリスのリベラルは宗教から始まった イメージ:pichetw / PIXTA

アメリカ民主党・共和党の政策の差は小さい

次にアメリカのリベラル事情を考えてみましょう。

アメリカでの政治勢力の対立軸は、もともと連邦派(フェデラリスト)と反連邦派(アンチ・フェデラリスト)でした。中央政府の権力を強力にすることを目指すのか(中央集権化)、各州の権限を尊重するのか(地方分権)という争いがあり、それが南北戦争(1861~1865年)に発展します。

北東部、中西部を支持基盤とした連邦派は、黒人奴隷制反対を掲げて「共和党」を結党しました。一方、反連邦派は「民主共和党」として州権主義、農業重視、民衆の政治参加などを主張、南部を中心とした勢力を支持基盤に持って、農場主などの権益の擁護を行って、その一部が現在の「民主党」となります。現在の両党の立ち位置とは入れ替わっていることに注意が必要です。

19世紀後半になると、知識や道徳を高め、それによって国家や社会が抱える矛盾を変革していこうという「進歩主義」(プログレッシブ)が台頭します。共和党ではセオドア・ルーズベルト、民主党ではウッドロウ・ウィルソンなど、両党に進歩主義者がいたことで、所得税の導入、上院議員の公選制、禁酒法の導入、女性参政権など、社会と政治の改革が著しく進みました。

その後、共和党はだんだん保守化して、民主党がゆっくり進歩主義を吸収していきました。「ニュー・ディール政策」の頃から、経済規制に政策を転換し、リベラル色を強めた民主党は、60年代には公民権運動をジョン・F・ケネディ大統領らが支持し、リンドン・ジョンソン大統領は社会福祉を充実させました。

なお、共和党の進歩主義と民主党のリベラルとの違いですが、前者は不公正競争、環境破壊、危険な食品などの規制に重点があり、後者は仕事の創出、教育や公民権の平等、社会福祉の充実などにまで広がったものという整理が可能だと思います。

しかし、社会福祉を重視するといっても、もともとアメリカは小さな政府であり、国民皆保険もオバマ・ケアで導入されたものの、ヨーロッパや日本に比べると低レベルのものに留まっています。社会主義は自主独立の国是とも合わないし、ソ連と冷戦を戦ってきた経緯からも名乗る人がほとんどいません。

2016年の大統領選挙で、民主党の指名をヒラリー・クリントンと争ったバーニー・サンダース上院議員が、社会民主主義者を名乗ったのは、非常に珍しい例です。

それに対して、共和党は保守化への道を歩みます。とくに80年代のロナルド・レーガン人気にあって保守主義を強く打ち出すようになり、キリスト教主義者やキリスト教の古い価値観を大事にする、または白人の文化を大事にするという保守派が、だんだん力を持っていきました。

そして、彼らによって、リベラルという言葉はやや軽蔑的に使われるようになりました。すると、民主党のほうはヨーロッパ的で中道左派的な考え方、単純にいうと、宗教の束縛から離れたり、古い道徳からの脱却として人工中絶や離婚の容認、さらに同性愛を容認したり、人種平等や環境重視などの方向に走り、アメリカ的なリベラルという姿をだんだん現していきます。

その象徴こそがバラク・オバマ大統領でしたが、その後、オカシオ・コルテスなど一部の議員は、過激化し、ジョー・バイデン政権にとっても厄介な存在になりつつあります。

また、共和党が地方などのプアホワイト、民主党がアフリカ系やヒスパニックに強いという図式ができあがりました。

そして、全体を俯瞰(ふかん)してアメリカの政党と比較すると、アメリカでは、民主党政権の外交防衛政策や経済政策が、日本の自民党が採っている政策より左寄りになったことなどは現実としてはありません。民主・共和両党とも、日本でいえば自民党内に収まる程度の政策の違いにすぎません。

一方、自民党保守派が妊娠中絶を禁止しろといってるわけではありませんし、国民皆保険に反対しているわけでもありませんから、自民党の保守派の主張もけっこう、おとなしいものなのかもしれません。

▲アメリカ民主党・共和党の政策の差は小さい イメージ:baphotte / PIXTA