本業は東京工業大学で物理学を研究する科学者。しかし、人は敬意をこめて、彼を「コマ博士/SF博士」と呼ぶ。本業の研究をコツコツと進めつつ、コマで遊びながら、はたまたSF映画を題材にしながら、難解なイメージのある「科学」の世界を、多くの人にわかりやすく伝える活動も精力的に行っている山崎詩郎氏。
彼の科学への愛は驚くほど深い。軸にあるのは「科学の面白さを多くの人に伝えていく」ということ。ブレの無い「科学愛」は、どのように育まれ、形成され、それをどう仕事につなげていったのだろうか。
「コマ博士」は本業ではない!
――先生は「コマ博士」としてテレビなどでもよく出演されていますが、コマが専門なんですか?
山崎 じつはそのあたりは本業ではなくて。そちらは、趣味が高じて研究と両翼を成すぐらいまでになった、もうひとつの仕事になります。最初に本業のほうをお話しすると、今は、東京工業大学で物理学を研究していて、大雑把にいうと物質の科学、一般的によく使われる言葉だとナノテクノロジーとか、そのあたりの分野の研究をしています。原子や分子と言われる、とてもとても小さな世界、1億分の1メートルとか、すごく小さな世界の研究をしています。
――そういうミクロのものを研究することで、我々の世界にどのように享受されるんでしょうか?
山崎 じつは、第1段階の答えとしては、「まったく享受されません」というのが答えになってしまうんです(笑)。理学部というのはそういうものでして。理系の世界には、大きく分けると、理学部(サイエンス)と工学部(テクノロジー)があります。
サイエンスのほうは、世の中がどう動いているかを解明していくのが主な仕事。原子1個1個のとてもとても小さな世界は、我々の住んでいる大きな世界と全然違うルールで動いていて、その世界がどういう性質を持っているかを細かく調べていくのは、とても重要なことなんです。
というのも、小さな世界のルールがわかれば、我々の大きな世界のことも原理的には全部わかるはず。「大は小を兼ねる」という言葉がありますけど、言わば「小がわかれば大もわかる」という感じで。世の中を作っているミクロの世界のルールを確かめるというのが、理学部としてやっていることなんです。
とはいえ、サイエンスは20~30年後にはテクノロジーとして役に立つと言われていまして。スマートフォンの中のCPUなどは、どんどん細かくなっていって、今や2ナノメートルくらいで、原子数個のところまできている。将来的にこれをもっと小さくしたいとなったときに、今、僕らが研究している原子の世界のルール解明が役に立つはずなんですよね。
――お話を聞いていると、科学、とくに物理の世界のことは難解でちんぷんかんぷんだったりしますが、先生のお話は非常にわかりやすく、興味深い。そこは意識されていますか?
山崎 ありがとうございます。そこってじつは、人生でもっとも意識していること、私の使命としている部分でもあって。「科学をわかりやすく一般の方々に広げたい」というのが自分が一番やりたいことなんです。それもあって、SF映画を題材にした講演や、コマ教室のような形で、これまでで延べ数万人に「科学をわかりやすく」という形でお話してきました。
私のポリシーとしては、一応プロの科学者なので、ちゃんと中身を理解して話せるから、見かけだけのショーではなく、わかりやすくかつ本質をついた説明を、という形でのトークを心がけています。