売れるのは人(にん)が面白いヤツ
時ではなく、話を元に戻そう。
しばらくして、ネタ番組のオーディションに行った帰りに「打ち上げに行こう」と後輩たちに声をかけた。若手も気兼ねなくおいでと声をかけたら、「先輩×後輩」の松井もやってきた。今の松陰寺だ。
芸人の飲み会はいつだって反省会から始まり、お姉ちゃんの話、そして仕事の愚痴で盛り上がる。楽しくなってきた俺は「TAIGAの良いところを言う山手線ゲームやろう!」と提案をした。
後輩は「カッコイイ」「面白い」とおだててくれるので、単純な俺はいい気分になっていたが、松井は「スベってるのに、それを表情に出さないとこ」と、軽くバカにしながら俺のことをいじってきた。
ちょっと面白いヤツが入ってきたな。そう思った俺は、トイレに行ったとき携帯番号を交換した。
それからは急速に距離が縮まった。事務所ライブのあとも、オーディションのあとも、打ち上げとなると先輩×後輩の二人は俺のあとについてきた。「TAIGAさん、TAIGAさん」と慕ってくるのが可愛かった。
オードリーもそうだったが、先輩×後輩の二人も、ネタは面白くなかったけど売れてない頃から人(にん)が面白いヤツだった。
売れてない俺にはうまく説明できないが、人の面白さというのは努力とかでどうにもならないらしい。人が面白くない芸人は、台本が面白くてもやはり売れないと思う。
だからといって、俺は彼らが売れると思って付き合ってたわけではもちろんない。たまたま波長があったから一緒にいただけだ。松井は俺の風呂なしアパートの近くに引っ越してきたし、近所で一緒にネタを作ったり飲みに行ったりもした。それくらい一緒にいて楽しかった。俺は松井にネタ作りの基本的なことや、ステージの上での自分の見せ方を請われるままに教えた。松井はいつもうれしそうに、それを聞いていた。
彼らがM-1グランプリで爆笑をとり、オードリーと同じようにスターになっていくとはこのときは知るはずもなかった。
(構成:キンマサタカ)