一緒に人生を歩む覚悟はなかった
「売れるのはもう無理かなぁ」「諦めて他の仕事を探そうかなぁ」
そんなことを考える時間も増えていた。この頃のことを、地元の中学で番長格だった友人は今でも覚えているそうだ。一緒に飲みに行っても鬱々としている俺を見て、何度も「もう芸人を辞めたら?」と言おうか迷ったそうだ。
きっと、いつも暗い顔ばかりしていたんだろう。先の見えない生活が本当にツラかった。来る日も来る日もショーパブや営業ばかり。憧れのテレビには手が届きそうで、ずっと届かないまま。好きで始めた仕事なのに、嫌いになりそうだった。
金持ちの社長の都合で六本木に呼び出されて、ヘラヘラと愛想を振り撒いてもらうタクシー代もアホらしくなっていた。
こんな俺が、彼女と付き合っていても幸せになんかできないだろう。俺もそうだったし、彼女もお金はなかったから、貧乏な2人が一緒にいてもみじめになるだけだった。そして、心の奥底には、クビになったショーパブのバイトの子と関係があることを、芸人仲間に知られるのがイヤだという、ちっぽけなプライドがあった。
それでも、俺から遊びに誘ったりと、ずるずると付き合いは続いた。ライブが終わると、必ずメールをくれた。
「今日もTAIGAさんが一番面白かった。絶対に売れると思う!」
ライブはもちろん、R-1ぐらんぷりの予選も毎回見に来てくれて、合否の結果が出ると同時に「やったね!」とうれしそうなメールを送ってきてくれた。おそらく結果が出る時間が近づくと、俺よりも結果速報を気にしてくれていたに違いない。予選を通らなかったときはメールは送られてこなかった。きっと、傷心の俺を気遣ってくれたんだろう。
一緒にいる時間は楽しかったが、これ以上は気を持たせてはいけないと「また付き合うとかはないから」とキッパリ断ったこともあった。
それなのに、彼女から「もうTAIGAさんの前からいなくなるよ」と言われたときは、あまりに焦って俺のほうから引き留めてしまった。彼女と離れるのはイヤだという気持ちは、どんどん強くなっていた。
一緒にいたいし、いなくなると寂しい。彼女のことを好きな気持ちはあるし、向こうも好きでいてくれてるのはわかる。でも、一緒に人生を歩む覚悟はない。なぜなら、俺は売れてないしお金がないからだ。自分に自信が持てない俺が、誰かを幸せにできるはずがない。
そうして中途半端な状況は何年も続いた。
(構成:キンマサタカ)