2019年に消費税が10%に引き上げられ、その半年後にコロナ禍に突入した日本。現在ではロシアのウクライナ侵攻が物価に影響し、家計の圧迫にあえいでいる人も少なくないだろう。しかし、我々に課せられている消費税は増え続けているというのに、景気は落ち込み続けているような気がするのはなぜだろうか? 実は、2019年の消費増税は経済史に残る事件となっていました。

※本記事は、高橋洋一:著『給料低いのぜーんぶ「日銀」のせい』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

「財政破綻」は消費増税の根拠にならない

▲財政破綻を防ぐために消費税率を上げる? イメージ:Ystudio / PIXTA

消費税を議論する際に、必ずといっていいほど出てくるのが、ここでも書いたが「財政破綻論」だろう。

これについては、本書2章で、日本の財政状態を「政府」と「中央銀行」を合わせた統合型のバランスシート(B/S)で見れば、「資産」と「負債」の両方を見ることで、資産が負債を上回っていることが一目瞭然となる。

財政破綻を唱える人は負債の部分しか見ていないで騒いでいるだけ。簿記の基礎を少しだけ学んで見直せば、何も問題がないことがわかる。

これで「財政破綻論」への答えは終わりなのだが、いい機会なのでもう一つ付け加えるなら、IMF(国際通貨基金)もそれを証明してくれているのだ。

IMFが2018年10月に、各国の中央政府、地方政府、中央銀行などすべてを合わせた国全体のバランスシートを、国際比較する形でまとめて発表している。

IMFのホームページでも公開されていると思うので、興味のある方は見てみるといいだろう。

ここでは結論を言ってしまうが、日本の純資産(資産から負債をひいたもの)はほぼゼロで、「借金まみれ」「破綻寸前」というのが誤り(というかウソ)であることがわかってしまう。

わかりやすくいうと、借金も多いが資産も多く、財政状況は健全だ。G7でもっとも財政状況がいいのがカナダで、日本は2番目だった。

ということは、「財政破綻」を理由に消費税を議論する必要は、もうこの段階でないのである。

時代に合わせた「福祉のため」という暴論

▲「財政破綻」がウソであることがバレた? イメージ:KY / PIXTA

一方、近年よく耳にするようになったのが、「社会保障のための消費増税」というものだ。財政破綻の虚構がバレはじめてきたので、「お年寄りのため」「福祉のため」的な言い訳なら国民も納得しやすいと考えたのだろうか。

少子高齢化で年金や医療などの社会保障費が足りないから、消費税を上げましょうというのだが、これもおかしな話だ。

年金や医療は、税方式ではなく「保険方式」で運営されるべきもの。日本の制度設計もそうなっている。保険とは保険料で成り立つシステムで税金とは関係がない。

日本は国民皆保険制度なので、国民は社会保険料を払う義務という意味で、保険料は実質的には税金だ。しかも、社会保障限定で使われるという目的税である。

しかし、消費税は何にでも使える一般財源だ。「社会保障目的税化」という議論自体が制度のあり方として間違いなのだ。

とにかく財務省は、消費税を上げる理由を、時代に合わせてその都度変えてくる。そのロジックに惑わされないよう、理論を固めておくことが大事だ。